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2016年になってから増えたこと。
ひとつはお酒を飲む日。
寒さに屈し、アウトドアできない日々が続き、
何か手持ち無沙汰というか、落ち着かないというか。
それで夜な夜なジンビームを口にしてしまい、
その勢いで甘いお菓子をつまんで長い夜に。

もうひとつ増えたのは読書をする時間。
お酒を飲んでいるとき、
酔い加減と作品の引き込み力がぴたっとはまる時があり、
そうなると活字が良いつまみになり長い夜に。

というわけで、またしてもブックレヴューです。

■辻村深月「朝が来る」
   2016021201
それまではいい作品を書いていたのに、
直木賞などの有名どころを受賞したら、
燃え尽きたのか、力みなのか、焦りなのか、
その後ぱっとしなくなる作家がいる。
逆に、直木賞を受賞したことで注目度が増し、
潜めていた能力を活用できる場が提供され飛躍する作家がいる。

辻村さんは明らかに後者だ。
元々、言葉の選び方や話の運び方が上手ではあったが、
作品ごとに安定感が増し、余裕さえ感じる。
そして何より辻村美月的な文章表現が明確になってきている。

この作品は、子供ができない事情がある夫婦と、
子供を身ごもったものの育てられない事情がある女性の話。
女性が産んだ子は、特別養子縁組によって夫婦に引き取られる。
大事に育てられ、子供は6歳になり元気に幼稚園に通っている。
そこに産みの親が突然現れて言う。
「子供を帰してほしい。できないならばお金がほしい」

産みの親は、中学時代から突如転落していく。
一度歯車が狂うと、もう止めることができず、
流されるままに生きていく。
歌謡史を振り返れば、「自分の気持ちに素直に生きればいい」、
「時の流れに身を任せればいい」、「あるがままに生きればいい」など、
楽観的なメッセージの曲が多くあるが、
現実はそんなふうに生きていたら
とり返しのつかない事態に陥っていくものだ。

産みの親の無知さ、短絡ぶりをよく描いている。
例えば、署名も押印もしていないのに勝手に保証人にさせられた際、
借金取りが来たら、「私は保証人てばない」と戦うのではなく、
職場を捨てて逃げ、窃盗をはたらいたりする。
何か問題が起こったら、そこで対峙するのではなく逃げていく人生。
そして行き場もなくなる。
そんな彼女に光をくれたのは意外な人物だった。

なお、ストーリーには直接影響はしないが、
夫婦と同じマンションに住む若いママ友の浅ましさや
ズケズケしたところなど、嫌な感じをうまく拾っている。
こうした周辺のストーリーにも工夫とこだわりがあり、
結果的に核心部分を際立たせている。
しっかりと組み立て、まとめられた作品だ。

■下村敦史「闇に香る嘘」
   2016021202
69歳の全盲の男が主人公。
41歳で失明。現在ひとり暮らし。
娘と小学生の孫はいるものの疎遠。
というか娘の側から距離を置かれている。
原因は傲慢な態度。
すぐに怒鳴ったり、嫌みを言う父親だった。
今はそれを後悔している。

孫は重い腎臓病を患っており、腎臓移植をするしか回復する術がない。
男は孫のために移植を申し出るが、検査の結果不適合と診断される。
移植できるのは患者と六親等内の血族に限定されている。
そこで男は、自分の兄に移植を願い出るが頑なに拒まれた。
再三申し入れるが完全にシャットアウトされる。

その態度が気になり、兄の過去を調べ始める。
というのも、男は戦後まもなくの幼少期に
中国から日本に戻れたのに対し、
兄は中国残留孤児として1982年まで帰国できなかった。
兄と離ればなれになったのは幼少の頃。
兄が帰国した時には全盲になっていた。
もしかしたら別人が兄になりすまして日本に渡ったのではないか。
そんな疑念にかられていく。

盲目であるがゆえの厳しさ、辛さ、孤独。
それでもなおプライドが許さない不器用さを丁寧に描いている。
それにしても、盲目の老人とはいえ、料理は作れるし、
行ったことがない都内各地に電車で行けたりと、
こんなに色々なことができるのだなと意外だった。

登場人物が皆怪しげで、いい意味でもやもや感が保たれたまま
読者を引っ張っていく。
ただ、キャストの登場が唐突で、登場した背景も説明不足かなと。
また、常に緊迫感はあるのだが、目が粗く隙間が多い印象。
その結果、話の転がしがこなれていない感じがした。

とはいえ、素材はとてもよろしいと思う。
よく調べられているし、よく練られている。
多くの布石をおいて、後半にひとつずつ拾っていき、
終盤で意外な方向にひっくり返し、「そっちだったのか!」と
思わせる。力作だ。

■湊かなえ「望郷」
   2016021203
瀬戸内海にある「白綱島(しらつなじま)」なる離島を舞台に、
島を出て行った者、戻ってきた者、ずっと住み続けている者の
それぞれの視点から、故郷とのつながりや思いを描いている。

ただ、そのつながりや思いはダークサイドなもの。
家族への不信感、島の閉塞感、
いつまでも引きずる過去のイジメや事件。
皆それぞれ下ろしたくても下ろせない荷物を背負っている。
その荷物の大きさや重さが読み手を息苦しくさせつつも、
淀みなく引き込んでいく。
がつーんとくる衝撃はないものの、
静かに迫ってきて連れられていく感覚だ。

島の高校を卒業して都会へ。
ミュージシャンとなってヒット曲も生まれた。
彼は同級生からの強引な誘いで、卒業以来初めて故郷へ帰る。
彼は島にいた頃、同級生から数々の嫌がらせを受けていた。
それが今では手のひらを返したように歓迎する。
しかしそれは、有名人と同級生だったという自己アピール。
過去の出来事を引き合いに出した脅しともとれる言動によって、
サインを何百枚も書かせたり、無理矢理歌わせたりする。

作品の中にはこの手の展開が何度かあるのだが、
いずれも、きっぱりと断れず、ずるずるいくパターンである。
葛藤の中で、結局は深みにはまっていく。
しかしエンディングでは小さな希望を灯してくれる。
誰かが自分を守ってくれていることを、さらりと描いて締めくくる。
書きすぎることなく、よく整えられた作品だ。

■新 雅史「商店街はなぜ滅びるのか」
   2016021204
昨年、TBSラジオを聴いていて紹介されていた作品。
全国的に商店街の衰退が進んでいる。
「シャッター通り」は珍しくないどころか、
逆にシャッターが開いている店ばかりだと違和感をおぼえることもある。

高度成長期以降、道路の整備が進むとともに
移動手段は自動車中心になった。
情報通信手段も飛躍的に発展した。
生活スタイルは変化し、顧客のニーズも多様化した。
その結果、大型店や通信販売などに食われる形で商店街は衰退した。
ただ、このことは誰もが感じ取れる外的な要因だ。

本書は、「商店街とはなんなのか」という根本的なところからスタートし、
戦後の都市一局集中やオイルショック、法律改正などの時代背景に
言及しながら、商店街が衰退した内的な要因を丁寧にまとめている。

最も印象に残ったのは、商店街衰退の大きな要因として
商店が家族経営で行われたことを挙げている点。
江戸時代は、跡取りがいなければ家族以外の人材を積極的に活用して、
店を後世につなげていった。
奉公に店を譲った例も少なくない。
戦後昭和の商店は家族で営まれ、家族以外の者を経営に参加させなかった。
その結果、せいぜい二世代程度しか存続できない事態を招いた。
家族が衰退していく中で、商店だけが生き残れるわけがないのである。

かつては酒、米、たばこなど販売規制商品が多く、
それは既得権となって商店を守ってきた。
また、メーカーと特約店との関係で価格統制が行われてきた。
言われてみれば、ナショナル(松下電器)やポーラ化粧品など、
そのメーカーの商品だけで営業している小店舗が珍しくなかった。

こうした規制が少しずつ突破割れてきたのが1980年代半ばから。
今にして思えば、消費者はずいぶんと高い買い物をさせられていたし、
不便だったし、非効率的だったと思う。

商店街にはそれなりの良さがある。間違いなくある。
ただ平成28年の国民の生活様式とニーズを考えると、
環境や要件が整った特定の地域でしか
商店街は盛り上がっていかないのではないかと思う。
ドライな感想で恐縮です。

                    ◆

私が10代だった80年半ば頃はまだ個人商店が多くあった。
入店したら何も買わずには帰れないようなプレッシャーがあった。
本屋で立ち読みはできず、レコードもゆっくり選べなかった。
なので中高生の頃、たまに札幌や小樽へ行った際の最大の楽しみは、
本屋で立ち読みができることだった。
それとお祭りでもないのにタコ焼きを食べられることだった。

現在CDはほとんど通信販売で購入。
本も通信販売率が高くなっている。
しかしタコ焼きはお祭りで食べるのが一番美味しく感じる。
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