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私が選ぶ「ブック・オブ・ザ・イヤー」が2年ぶりに復活だ。
昨年は記事作成を怠ってしまった。
毎年継続してきた企画だけに、欠年を発生させたのは非常に残念だ。

書評は、読んでから速やかに整理しなければならない。
内容も感想も印象も忘れてしまいやすいからだ。
それができなかった。
熱意も責任感も足りなかった。

今回からリスタートだ。
というわけで、2015年中に読んだ小説等の中から、
特に面白かった、心に残った6作品を紹介させていただく。
(カッコ内に記載した年は刊行年)

■櫛木利宇「寄居虫女」(2014年)
   櫛木理宇/ヤドカリ
仮に2014・ブック・オブ・ザ・イヤーを記事にしたなら、
櫛木理宇の「赤と白」はセレクトされていた。
2014年の読書生活における新たな出会いの代表が櫛木理宇だった。
2015年に読んだこの作品も強烈だった。

作者は「くしき・りう」、タイトルは「ヤドカリオンナ」と読む。
ターゲットとなる家庭を定め、言葉巧みに入りこみ、
少しずつ洗脳し、やがて服従させ、
結果的に一家を乗っ取ってしまう山口葉月という女性の話だ。

ターゲットとなった皆川家は、父母と三姉妹の五人家族だったが、
それぞれがそれぞれを疎ましく思い、
内実は家庭が崩壊している状態だった。
そこに現れたのが山口葉月。
彼女は皆川家家族の良い聞き役となり、家族をつなぐパイプとなるが、
次第に、一日中眠らせない、家族の悪口を語らせて証文を取る、など、
いかがわしい手法で洗脳し、服従させていく。

苦痛だし悲痛だ。
もやもやとした嫌悪感が広がる道を歩いて行くような気分なのだが、
立ち止まる気にも、引き返す気にもならない。
妙なブラック感に引きつけられて、読み進むしかないのだ。
血行不良なのにヘビースモークをしたくなったり、
ダイエットをしているのにお菓子ばかりを欲する感覚だ。

展開やオチなど荒削りではある。
しかし、すうっと世界に引き込む力のある筆致である。
櫛木氏が2015年にリリースした「チェインドッグ」も
なかなか面白かった。
今年も期待できそうだ。

■西川美和「永い言い訳」(2015年)
   西川美和/永い言い訳
作家の夫と美容師の妻。ともに40代後半。
二人の仲は冷え切っていたものの、
お互いを責めたり、もめたりすることもなく、
低速低位で安定していた。

ある日、妻は女友達と長距離バスに乗ってスキーに出かけた。
移動中、交通事故が発生し、妻は命をおとす。
なのに夫は悲しみを実感できない。
ショックであり、虚無感もあるのに、涙が出てこない。

そんな中、妻とともに亡くなった女友達の家族と会う機会が訪れる。
その家族との触れあいを通じて、生前の妻との関係を見つめ直し、
再生していく物語だ。
この作品を象徴する言葉は、作品の中で用いられている、
「愛するべき日々に、愛することを怠ったことの代償は小さくない」だろう。

彼女は作品数が多くはないが、これまでハズレがない。
言葉の選び方、使い方が巧い。
きりっと引き締まりつつ、滑らかな文章。
文章だからこその繊細な感情が表現されている。


誰しも自分の中に抱えているであろう恥ずかしさや愚かさを紡ぎ、
心が変化していく過程における行間のようなものを丁寧に綴っている。
特に、前半の妻とのすれ違いの様子は、
生活の些細な場面を見事に切り取っている。

■樋口毅宏「民宿雪国」(2010年)
   樋口毅宏/民宿雪国
画家であり、新潟県の海岸の町で「民宿雪国」を経営する男の
生涯に隠された謎をあぶり出していく物語。
男の死後、あるジャーナリストが、
関係者の証言や音が残した日記などを基に、
男の数奇な人生を明らかにしていく。

スピーディーな展開、予想を覆して二転三転する状況に
ぐいぐい引き込まれる。
特に中盤までは、パンクロック的なビートで、
ざくざく切り込んでいくようなノリがある。
景色を切り裂いていくような疾走感にのせられていく。

後半は山中のロングでワインディングな道路をゆっくりと進む感じか。
終盤はひねりすぎていて、ストレートには理解しがたく、
突き抜ける威力に欠けたかと。

しかし、樋口作品は刺激的だ。
ロック的な勢いと切り口、それにサブカル感も漂っている。
グロステクさが激しい箇所もあるため万人受けはしないだろうが、
逆に強烈な支持者も少なくないだろう。

証言をする関係者の中には実在した人物も登場。
もちろんフィクションなのだが、
虚実を入り混ぜ、ノンフィクション風に書いている。
この大胆さと奇想天外ぶりは、妙に愉快で痛快だ。

■辻村深月「ハケンアニメ」(2014年)
   辻村/ハケン

作家、監督、プロデューサー、アニメーターなど
アニメ業界に関わる人々が、
そのクールで放送されるアニメの中でトップを取る=覇権を競うお話。
アニメ作品への関心が薄く、業界にも疎い私でも面白く読めた。
というか、色々と興味深かった。

漫画やアニメの制作と聞くと、作者ばかりに目がいきがちだが、
第何話かによって絵を描く人が異なったり、
同じ日の放送の中で主人公と脇役とで絵を描く人が異なったりなど、
真の作者は誰なのかわからなくなるほど多くの人が関わっている。

アニメ制作に関してだけではなく、出版社や放送業界に対する宣伝・広報や、
アニメでまちおこしをする地方の町とのタイアップなど、
アニメを取り巻くあれこれを題材にしていることも、
マニアックにならず、物語を広がりのあるものにしている。

アニメ業界は、とにかくアニメ好きな人が多い。
労働時間や給料の問題ではなく、好きなことをできる幸せを感じており、
純粋に良い作品を作りたいという熱い思いを持っている。
ライバル会社であり、覇権をめぐり競い合う同士であっても、
素晴らしい作品、素晴らしい仕事については相手を称える。
そうした辻村さんのアニメ業界に対する敬意が感じられた。

それにしても辻村さんはハズレのない作家だ。
競走馬でいえば、強烈な末脚や一瞬のキレがあるわけではないが、
好位につけてレースを進め、最後の直線では必ずトップ争いをして、
悪くとも複勝には絡むようなタイプだ。
だらだらと書き連ねたこところがなく、小さなカーブや起伏を織り交ぜながら、
様々な景色を鮮明に見せ、きっちりとヤマ場もつくる。
もう日本を代表する女性作家と言ってもいいかもしれない。

■葉真中顕「絶叫」(2014年)
   葉真中顕/絶叫

1973年生まれの女性の話。
地元の高校を卒業して地元の企業に就職。
職場では雑用業務が中心で安月給ながら平凡に暮らす。
しかし、父の蒸発と父の残した多額の借金により人生が一変する。

今の給料では借金を返済できないので保険事務員に転職。
なりふりかまわず客をとり、ついには枕営業まで。
収入は飛躍的に伸びるが、その反動か金遣いが荒くなる。
裕福な生活を維持するため風俗業界に転身、さらに保険金殺人。

凄まじき転落ぶりだ。
こうした連鎖的に破滅していく展開は、
例えば宮部みゆき氏、桐野夏生氏、奥田英朗氏などが
過去に描いているような気がして、既読感みたいなものもあり、
新鮮みは乏しかったが、着地点は凄まじかった。

読んだ後の素直な感想は二つ。
ひとつは「生きていくためにはそこまでやっちゃうんだな」。
もうひとつは「
猫ってそんなことするんだ」。
もしかしたら、
猫の生態が一番衝撃的だったかもしれない。

文章表現は葉真中顕(はまなか・あき)たるオンリー感が薄い。
しかしストーリー的には視点が面白いし、個性的でもある。
物語の構成も展開もよく、読み手を飽きさせない。
まだ二作しか発表していない作家とは思えないまとまりだ。
ダークな転落劇に引き込まれます。

■柚月裕子「最後の証人」(2010年)
   柚月/最後の証人

ホテルの一室で起こった殺人事件をめぐる検察官と弁護士の戦い。
そして、その殺人事件に至った過程。
この二つの方向からストーリーが進み、
最後に合致する構成となっている。

誰が誰を殺害したのかは終盤まで明かされない。
それはもったいぶっているのではない。
読み手を次第に深いところに引き込みながら、
じりじりと真実に詰め寄っていくようである。

発端は7年前に起こった小学生の交通事故死。
警察は小学生の信号無視が原因とし、運転手は不起訴に。
しかし、運転手は飲酒していたとの証言があり、
また運転手が県の公安委員長であることに配慮し、
警察がもみ消したのではないかとの疑惑も。
小学生の両親は悲しみと疑念を抱いたまま年月を過ごす。
そんな時、小学生の父が、派手に飲み歩いている運転手を目撃。
そこから事態は一変していく。

ストーリーの組み立ての巧さが際立っている。
事件の概要を小出しに明らかにしていく加減が巧み。
前菜、メイン料理、デザートのいずれもが充実し、
しかも料理が出てくるタイミングが絶妙な感じだ。
意外性がありつつも非現実的ではなく、
地に足のついた内容なので重心がぶれずに読み進められる。

終盤の詰めの濃さはフィナーレに相応しい迫力。
そしてエピローグでは緩やかな風を吹かせる。
ぐいと押し込んで、だめ押しをして、すっと引くような。
2015・ブック・オブ・ザ・イヤーにおいて一冊だけ選べと言われたら
この作品だろうなと思う。

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