ADMIN TITLE LIST
高校生くらいの頃から、あまりクリスマスが好きではなかった。
クリスマスだからと無理する感じ、がんばっちゃう感じ、
浮かれ気分で楽しまなきゃならない、ある種の義務感みたいのが
苦痛だった。
ケーキもチキンも大好きなのに、クリスマスには求めなかった。
クリスマスよりもむしろ節分や冬至の方が趣があって好きだった。

ここ数年、やっとクリスマスへのわだかまりが消えた。
12月に入って、ステラプレイスやイオンやテレビから
クリスマス・ミュージックが流れてくる。
それも心地よく感じてきた。
クリスマスという季節のイベントがあっていいじゃないかと
思えるようになった。
だからクリスマスに思い切りケーキやチキンを食べようと。
ところが、歳をとって、ケーキやチキンをあまり欲しなくなった。
ケーキよりも煮豆、チキンを食べるなら筑前煮で。
変わるものだ。

今回はブックレヴュー。
よろしくどうぞ。

                  ◆

■伊坂幸太郎「死神の精度」(2005年)
      死神の精度
主人公は、「千葉」という名前をつけられた死神。
人間の世界に派遣され、死の対象者を一週間にわたって観察し、
死を可とするか、死を見送るかを決定するのが仕事。
死神は、対象者に近づくため、対象者の職業や生活に合わせて、
20代のフリーターにも、40代のサラリーマンにも変身する。

数年ぶりに再読したのだが、数年前より面白く読めた。
6本の短編で構成されており、6人の死の対象者が登場する。
それぞれの作品は数十頁であり、一週間の出来事なのだが、
対象者のセリフや行動から、それまでどういう人生を送ってきたのかが、
鮮明に浮かび上がってくる。それだけで十分に読み応えがある。

対象者は死ぬのか、それとも見送られるのかが軸ではあるものの、
その決定をくだすまでの過程は、コミカルな場面が多い。
死神・千葉の、人間界に慣れていない天然ぶりが
いいスパイスとなっている。
若者に、「おっさんくらいの年齢だと、年貢の納め時なんじゃねえの」と
言われたら、「年貢制度は今もあるのか?」と返したり、
ビーフステーキを食べる男に、「死んだ牛はうまいのか?」と聞いたり。

70代の女性美容師の話が特に良かった。
千葉は彼女から、「明後日、10代後半の男女4人くらい、お客さんを
集めてきて」と、いきなり無理っぽいお願いをされる。
唐突に不思議な依頼がされるのは、実に伊坂作品らしく、
これが大きな伏線になっている。
とても切なく、清々しい結末だった。

■桜木紫乃「起終点駅」(2012年)
起終点駅
桜木さんの作品は、表紙の装丁がいまひとつ内容と
かみ合わないような気がしている。
陰や曇りや寒さなどを伴った濃密な作品が多いのに、
なぜかぼんやりと明るい感じの装丁が多い。
この作品も、なにゆえこの装丁なのかと。
しかし、中身は良いです。

6つの短編が収められている。
函館、釧路など、いずれも北海道を舞台に、
不倫、犯罪、失踪など重たい過去を持ちつつ、
その地に根をはやして、日々を生き続ける人々の物語である。

見えない未来、孤独、閉塞感。
そんな心情を、ありふれた日常の出来事の中に濃密に描き込んでいる。
文章の流れが上手いので、どんどん世界に入ってしまう。

そして、相変わらず素晴らしいのは、北海道の人と土地の描写。
これほど北海道をきちんと描ける人はなかなかいない。
北海道の空気や風や匂いがきちんと伝わってくる。


6つの短編の中でも、「たたかいにやぶれて咲けよ」と「潮風の家」は
強く心を惹きつけられた。
特に、「潮風の家」は良かった。
天塩町の海辺の小さな集落にひとりで暮らしている老婆と、
若い頃に天塩町を出て、江別市で仕出し弁当の仕事をしている女性の話。
天塩町の老婆は、満足に学校に行けなかった、平仮名しか書けない。
木造の小さな家で、寒さに耐えながら、
一日中、ブラウン管テレビを見て過ごしている。
辛いはずなのに、あっけらかんとしている。それが逆に胸を締めつける。
エンディング、江別の女性が天塩の老婆に贈り物をするシーンは、
涙腺への刺激が強烈。泣かせます。

■中田永一「くちびるに歌を」(2012年)
くちびるに歌を
長崎県の五島列島にある中学校。
産休となった合唱部の顧問に代わって来た臨時教師の女性。
その女性に惹かれて、それまで女子しかいなかった合唱部に
男子生徒が多数入部。
しかし、ほどなくとて、男子部員と女子部員との間で対立が激化。
NHKのコンクールが間近にせまった合唱部はどうなるのか。

中学生らしい悩み、戸惑い、繊細さなどを上手に紡いだ、
もろく壊れやすいティーンネイジ・ブルーな作品。
「15年後の自分へ手紙を書く」という設定が非常に効果的で、
枯れの時代に突入した私にとっては、「ありがちな中学生日記」で
素通りしそうなところを立ち止まらせ、少しほろっとさせてくれた。

特に、身障者を兄に持つ、無口で目立たない男子生徒の手紙がいい。
口に出したら非難を浴びるような心の闇を綴っている。
等身大の本心が、痛みを伴いつつも、優しく気に伝わってきた。

全体に劇的ではない。
ドタバタしたり、ジタバタしたりはあるが、味わいは淡々としている。
だからこそ響いてくる。
島の景色や暮らしなども事細かく書いている、というよりは、
場面に合わせてさりげなく描いている。
くどい説明や必要以上の情報を浴びせられると興味を持たないが、
ストーリーを持った自然体の情報には興味を持つ。
そのため、この作品を読みながら、五島列島の地図を
グーグルでじっくり見たり、そこにある市町村のホームページまで見た。

中学生や高校生の頃に感じた、名前を付けられないような「うずき」。
良くも悪くも、その「うずき」を抱えたまま、
私は大人になっていったように思う。
なお私は、今現在も、完全に大人になりきっていない。
スポンサーサイト

テーマ:ブックレビュー - ジャンル:本・雑誌



















管理者にだけ表示を許可する



| HOME |

Design by mi104c.
Copyright © 2017 トゥナイト今夜もRock Me Baby, All rights reserved.