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森村誠一氏の「深海の夜景」という小説を読んだ。
森村誠一氏。80歳である。
大変著名な方ではあるが、失礼ながら、貴氏の作品はこれまで
読んだことがなかった。
貴氏の作品は「人間の証明」しか知らず、むしろ、2時間ドラマの
原作者のイメージが強かった。
たまたま聴いていたラジオ番組の中で、
この作品を絶賛していたので読んでみた。

深海の夜景 

7作の短編が収められており、

定年退職後の悲哀、苦悩、希望を描いたるものと、
復讐劇を描いたものが複数ある。
どの話もわかりやすく、起伏あり、伏線ありで面白いのだが、
展開がいきなり早くなる場面が目立ち、もっと背景を知りたい気がした。
なんとなくテレビドラマっぽいというか、長編を短編にした感じというか。

大ベテランらしい渋みのある表現も楽しめる。
派遣社員の男が、夜の街で20代の女性を危険から救い、
後日、お礼にと女性から家に誘われて食事をする。
男が帰る際、女性はこう言う。
「またいつでもお気が向きましたら、お立ち寄りくださいな」
いつの時代の人なのだ。
今時こんな言葉づかいをする20代の女性はいないだろう。

また、別の作品では、20代後半の男が、女性に別れを告げる際のセリフ。
「こういうことになって君には誠に申し訳なく思っている」
現代の20代の男が、彼女に対して「誠に」なんて言葉を使うか。
こうした前時代的なセリフが逆に面白い。

仕事人間だった男が、定年後の自由を持て余している描写も面白い。
何をしていいのか戸惑い、家族からも煙たがられる
いざ自由の身になると、すべて自分の意志と判断で生きていかなければ
ならないことが、これほど大変なものだとは思わず、
夜になると、「ああ、今日一日ようやく過ぎてくれた」と、
ほっとする場面は、ちょっと笑えてしまう。
そして、「私は自由が嫌いだ」と嘆くのである。

確かに、60代になって手にした自由とどう向き合うのか、
ということは私も想像することがある。
60代、70代でお金と自由があったら、安心だし楽だろうが、
40代の時とは、体力、気力、感覚、趣味嗜好など様々な点で異なる。
条件も環境も整ったのに、それを生かせる体力も気力もない。
だから、あえて30代、40代の忙しい時期にこそ自由を求め、
やりたいことをすべきではないかと思っているし、思ってきた。

西城秀樹氏は、「若いうちはやりたいこと何でもできるのさ」と歌った。
しかし、若い頃は財力に乏しく、また、家族、学業、就職、結婚、
社会との関わりなど、様々な事情に縛られ、
やりたいことがそれほどできるものではない。
元気があれば何でもできるというより、
元気はあったが何にもできなかった気がする。

しかし、10代、20代の頃の「やりたいのにできなかった」
という経験は大事だ。
やらなかった、ではない。できなかった、である。
そのときの欲望や後悔を忘れてはいけない。
それが中年になって生きてくるように思う。
失敗体験があると、それを下地にして、
歳をとってもまだ追いかけられるのだ。
もちろん逆に、失敗経験があるがために、
もう二度としたくなくなることもあるので一概に言えないが。

ただ、失敗体験がなく、ぼんやりと、
「時間ができたら、あれやろうかな」と考えているだけだと、
定年退職後にお金と時間が豊富にあっても生かせないのではないか。
環境は整ったのに、楽しみを見つける嗅覚を失っているのだ。
見つけたとしても、どう向き合ったらいいのかと対峙する能力も
失われているのだ。

そんなふうに考えている私なので、「今しかできないこと」というのは、
若い頃だけに限った話ではないと思っている。
40代には40代の、50代には50代の、「今しかできないこと」が
あるのではないかと思う。
いつかそのうちに、と思っていたらずっとできないだろう。
そもそも明日が来ることだって当たり前じゃないのだし。

私は「自由」というものの価値をかなり高く捉えている方だろう。
自由というものに付随する責任だとか孤独だとかも嫌じゃない。
なんとなく自由の優先度が高い人は少ないような気がしている。
それよりも、お金であったり、出世であったり、もちろん家族であったり。

私が「自由」を欲するのは、
抗うことができない不自由があってのものだろう。
なんの制限もなく自由が与えられると、それはそれで厄介かもしれない。
一週間、三省堂書店に置いてある本を好きなだけ読んでいい、
ということになれば、二日で飽きるかもしれないのと同じように。
つまりは、ある程度の飢餓状態があるから欲するのだ。

しかし、お金は違う。
お金をたくさん持っているのに、もっとお金を欲しがる人は少なくない。


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