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7月某日午後7時。札幌市東区環状通を夕日が照らす。
130707 
日が長い季節はいい。
何かもったいない気がして、日が沈むまで外にいたくなる。

今回はブックレヴュー。
よろしくどうぞ。

■奥田英朗「沈黙の町で」(2013年)
   奥田英朗/沈黙の町で
校舎内の敷地で、生徒の遺体が発見された。
高所から落下したと思われ、頭部が損傷した遺体だった。
自殺なのか、事故なのか、事件なのか。
亡くなった生徒の背中にある無数の傷や、携帯電話の履歴から、
同級生4人が転落死させた疑いが浮かび上がる。

生徒、教師、親、刑事、新聞記者など複数の視点から書き進められ、
映画のような場面展開で徐々に真実が解明されていく過程は、
スリリングなミステリー作品のようでもある。

共感できる登場人物は一人もいない。
しかし、気持ちはよくわかる。
それは、それぞれの立場に置かれた人々の心理状態が丁寧に、
それでいて、くどさがなく描かれているからだろう。

中学生が一番恐れることは孤立することで、
周りの空気を見て、みんなが行く方向へ考えもなくついていく。
正しいとか正しくないとかよりも、ノリと雰囲気に支配される。
こうした流されぶりが痛いほどに伝わってくる。
そこにイライラしつつ、釈然としないところがありつつも、
引き込んだら逃がさない筆者の巧みな筆運びを大いに楽しめる作品。

■宮下奈都「誰かが足りない」(2011年)
宮下奈都/誰かが足りない
6つの短編からなる作品。
どの作品も、引きこもり、認知症、先の見えない非正規雇用生活など
様々な悩みや苦しみを抱えた人達が、
「ハライ」というレストランに行くことで希望を見い出し、
新たな一歩を踏み出そうとする物語。

さらりとした文体で、ほんのりとした暖かさを残す内容ではある。
しかし、つかみどころがなく、かみ合わない感じがつきまとった。
場面設定も登場人物の心理状態も終始もやっとしている。

例えば、女性がいきなり見知らぬ男性に、「お茶でも飲みませんか」と
声をかけたり、従業員寮に行きたいと言い出すなどの非現実的な展開。
また、レストランへ行くことの必然性や伏線が弱いことなど、
全体的に唐突な印象を受け、違和を感じたのだと思う。

とはいえ、2012年の本屋大賞第7位にもなった作品。
つまり、この作品を推した店員の方がたくさんいるということ。
でも何かが足りない気がした。

■船戸与一「虹の谷の五月」(2000年)
船戸与一/虹の谷の5月
時は1990年代後半。
フィリピンの、電気も通っていない田舎の村に住む少年の物語。
彼は祖父と二人暮らしで、闘鶏で生計をたてている。生活は苦しい。
村の治安は悪く、村の首長も、警察も、軍も金と不正にまみれている。
住民は搾取され、差別的な扱いを受け、皆、困窮している。
そんな環境の中、少年は、村の山奥にある「虹の谷」と
呼ばれる場所に住む元兵士と親交を深めながら、たくましく成長していく。

数年ぶりに船戸さんの作品を読んだが、やはり面白かった。
この濃密さ、この緊迫感。
刻みは細かいのだが、息をつかせぬ展開。
長編ながら、だらだらしたところがなく、削り方が絶妙。
これぞプロの仕事だ。

フィリピンの田舎から日本へ嫁に行き金持ちになった女性、
弱者には無償で診療を行う日本人医師、酒におぼれる青年、
賄賂警察、不条理軍人、皆、すさまじくキャラクターが立っている。

行ったことがないフィリピンの田舎の情景が想像され、
匂いや湿気や音まで感じられるような筆さばきだ。
小さな村の小さな出来事なのにスケールが大きい。
小説のあるべき姿というか、小説の醍醐味を味わえる力作だ。
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テーマ:読んだ本 - ジャンル:本・雑誌





夕日の写真、ものすごくいいですね!


【2013/07/20 19:01】 URL | マキシ #-[ 編集]

マキシさん、コメントありがとうございます。
夕日フェチな日々を送っています。
あと何年かしたら朝日を求めるジェネレーションになりそうな気がします。
【2013/07/29 01:57】 URL | #-[ 編集]















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