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今回は、私が選ぶ「2012・ブック・オブ・ザ・イア」。
日本で最も遅い「2012・ブック・オブ・ザ・イア」かもしれない。

昨年までは新作部門と旧作部門に分けていたが、
2012年は古い作品をあまり読まなかったため、
今回はこの区分を撤廃し一本化した。

というわけで、5作品を選出させていただいた。
よろしくどうぞ。

■第1位 桜木紫乃「ラブレス」(2011年)
   01_ラブレス


昭和10年頃の生まれと思われる女性の激動の生涯を綴った作品。
幼少時は標茶町で極貧生活。
中学を卒業すると奉公に出され、奴隷のこどく扱われる。
たまたま町に巡業で訪れていた歌芝居の一座に心を動かされ、
何もかも捨て、逃れるように一座に加わる。
その後は歌手として各地を転々とする。

やがて一座は解散し、彼女は結婚、弟子屈町で暮らし始める。
子どもを授かり幸せな日々がくるかと思われたが、
姑の嫌がらせと夫の多額の借金に苦しむことに。
彼女は子供をつれて弟子屈の温泉ホテルで働き始める。
そこでとんでもない不幸に見舞われる。

それでも彼女は生きていく。
離婚して釧路に出る。そこでも曲がりくねった険しい道が続く。
いつも誰かに翻弄され、流されていく。
取りようによっては、気の向くままの人生ではある。
しかし、それが頼りなく、苦しく、哀しい。
彼女には大切なものがないのだろうか。
そんな気持ちで迎える終盤、彼女の秘めたる思いを知り、
苦しいほどに胸が締めつけられ、どうしようもなく切なくなる。

道東の景色と田舎の生活、昭和30年代から50年代にかけての
時代背景などを、物語の中に自然に溶け込ませているのもいい。
凄まじく余韻が残る作品。

また読みたいと思う。

■第2位 横山秀夫「64」(2012年)
   02_64

タイトルは「ロクヨン」と読む。
1月1日に始まり1月7日で終わった昭和64年に
その幼女誘拐事件は起こった。
身代金が奪われ、幼女は死体で発見され、犯人は未だ捕まらず。
この事件は「ロクヨン」と呼ばれ、多くの刑事の心に影を落としていた。
それから20年の時を経て、
ロクヨンを模倣したような誘拐事件が発生する。
そこからあぶり出されてくるロクヨンの真実。

警務部と刑事部の間の確執、同期の刑事に対する競争心とプライド、
警察内部の調整事務に伴う軋轢などが、嫌になるほど緻密に描かれている。
まさに横山秀夫氏の真骨頂である。
警察官が日々こうした住民不在の内輪の戦いに
大きなエネルギーを使っていることも、
まるっきりフィクションというわけではないのだろう。

そんなこんなにうんざりしつつもストーリーは重厚である。
なんらかんら言いつつ読み応え十分。
興味をそらすような隙間を作らないし、
集中をきらすような余計な場面を持ち込まない。
登場人物には誰一人共感できないし、
隠されている秘密も常にぼんやり漂っている感じがして不快なのだが、
展開の巧さと文章力のせいで、結局引き込まれてしまう。

ラストは、ロクヨン被害者の執念に驚かされるが、
このどろどろに緊迫した物語を書ききった横山氏の執念も
鬼気迫るものがある。
長編であるからこその良さを楽しめる作品である。

■第3位 宮部みゆき「ソロモンの偽証」(2012年)
04_ソロモンの偽証Ⅰ 04_ソロモンの偽証Ⅱ 04_ソロモンの偽証Ⅲ

不登校だった中学生が学校の敷地内で死んでいた。
警察は自殺と断定するが、しばらく経って中学校に差出人不明の封書が届く。
その内容は、中学生の死は自殺ではなく、
同級生に屋上から突き落とされたことによる殺人だというものだった。
これはマスコミにも漏れ、学校内外で問題が大きくなっていく。
そこで一人の女子生徒が、真実を知りたいと立ち上がり、
中学生達による裁判が始まった。

部から第部まで合計して2000頁を超える大作である。
登場人物それぞれのバックグラウンドや
事件に対する思いを丁寧に描いており、
密度の濃さを保ったまま展開していく。
この重厚感は、文字を読むからこそ得られるものであり、
筆者の物書きとしての力量を存分に味わえる。
特に第部はそれが際立っている。

ただ、第部以降は、展開の刻みが細かすぎて変化に乏しく、
なかなか話が前に進まない。
部は、登場する証人の発言を拾いすぎており、
小説ではなく記録を読んでいるようで、
しつこくて退屈に感じるところも多い。
また、裁判を担当した中学生達が、あまりに大人な言葉使いをしたり、
裁判制度を熟知しているようなやり取りをするのも
リアリティに欠けすぎて、ちょっとひいた。

部が素晴らしいので、どうしても第部を読みたくなる。
しかし、第部はごたごたしており、飽き気味になるところもある。
それでも、第部まで読んだら第部を読まないわけにはいかないでしょう、
という感じで、結局最後まで読まされてしまう。

前半から、「どう考えても、この人が怪しいでしょう」という人物がいる。
最後の最後に来て、その人物が真実を明かす。
残念ながら、「何それ」というオチである。
このために2000頁以上も読んだのか、という徒労感もおぼえる。
それでも最後まで読ませたのだから凄い作品なのは間違いない。

■第4位 大沢在昌「鮫島の貌」(2012年)
   04_鮫島の貌

タイトルは「さめじまのかお」と読む。
大沢さんの大ヒットシリーズ、「新宿鮫」の主人公である
新宿署の鮫島警部にまつわる短編集。

大沢さんの作品は毎年2、3冊は読むが、やはり新宿鮫シリーズが面白い。
短編集であり、長編のような濃密さはなくとも、
スリルとスピード、そして展開の巧さにより、
あっという間に引き込み、すっきりと読ませてしまう。

ストーリーがどれも鮮やかすぎて、読後の余韻があまりなかったことや、
例えば、こち亀の両津氏を登場させるなど、
ちょっと遊び心が強かったことで、振り返ってみると、
良くも悪くも息抜きになった(なってしまった)ような印象である。
そのため、この順位としたが、2012年に読んだ作品の中では、
最も引っかかりがなく、すいすいとページがめくれた。
大沢さんの巧さが際立っている。
長編の新宿鮫シリーズをまた読みたくなった。

■第5位 辻村深月「ツナグ」(2010年)
   05_ツナグ

「ツナグ」と呼ばれる使者にお願いすれば、
死者に一晩だけ会うことができる。
ただし、会うことができる機会は一生に一度だけ。
また、天国にいる死者が、この世の人と会えるのも一度だけ。
例えば、亡くなった母親に会ったなら、亡くなった父親には会えない。
亡くなった母親は、生存している娘に会ったなら、
生存している息子には会えない。

生存者は、「○○に会いたい」と使者に依頼する。
使者は、対象者(死者)にそのことを伝え、会うか否かの意思確認をする。
対象者にとっては、生存者と会うチャンスは一度だけ。
したがって断ることもできる。

依頼者として登場するのは、さえないOL、50代の頑固な男、
親友を亡くした女子高生、婚約者に突然失踪された男。
一生に一度しか死者に会えないというルールを絡め、
生存者と死者の間の関係や生存者が抱えている思いを、切実に描いている。

良かったのは、お涙頂戴だけに走らなかったこと。
人間のドライな部分や嫉妬、身勝手さなど、複雑な心情を織り交ぜたことで、
死者と再会することの意味に深みが増した。

残念だったのは、後半長めに描かれている使者にまつわる話。
これが、なんとも回りくどく、それまでの謎めき、切なさ、うねりなどを
薄めてしまった。この話は必要だったのか。

ただ、これまで読んだ辻村さんの作品の中で一番良かった。
人物描写やエピソードの用い方など、これまでの辻村さんは
遠回しで面倒なところがあり、そのため、物語にすっと入っていけなかったり、
軸が曖昧になる印象があったが、この作品はすっきりと良く書けていた。
お涙頂戴だけに走っていないことは事実だが、
泣かすところでは、きちんと泣かせてくれた。

私は、「天国の○○も喜んでくれてると思う」、「天国の○○に届いたと思う」
などというのは、死者に対して一方的すぎて、
なんとなく生存者のエゴのようなものを感じ、どうも苦手である。
墓参りには年に5回くらい行く。同年代ではかなり多い方だろう。
死者が自分を生かしてくれていると感じるところはある。
死者に対してもっと謙虚でありたいと思う。

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