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私が現在の職に就いた約20年前、昼休みになると職場には、
保険外交員の女性が毎日のように顔を出していた。
複数の保険会社の方が来ていたし、思い返してみると、
昼休みではない時間帯にも来ていたような気がする。

そんな彼女達に対して、周りの男達の多くは、
良く言えば親しげに、悪く言えば妙に馴れ馴れしく接していた。
そんなトレンドに私はのっかることができなかった。
のっかろうとも思わなかった。
というか、なぜそんなにフレンドリーになれるのか、
というか、フレンドリーになる必要があるのか、
私が踏み入ることはできない世界の有り様だった。

当時は、保険外交員のおばさんがセッティングした合コンも
催されていたようだ。
もちろん私に声がかかることはなく、ほっとしていた。
そのくせ、合コンはどうだったのかと結果は知りたがった。

保険外交員の女性に対しては、
無愛想にならない程度に常に淡々と接していた。
なので、あまり勧誘された経験もない。
まれにしつこい方がいて、そんなときはやむを得ず、
「実家が保険屋をやっている」と、
テル・ア・ライ、してしまったこともある。

             ◆

時は流れ、次第に保険の女性が来る回数は減った。
たまに来て、さらっとチラシを置いていくだけだったり、
特定の者と話し込むようなスタイルに変化した。

ところが今年度、小さなムーブメントが起こった。
とある生命保険会社の新人女性(23歳)が、
私の職場の昼休みに定期的に顔を出し始めた。
礼儀正しく、和やかな明るさがあり、
いい意味で押しの強さがない、というか、
バリバリ女性にありがちなカドが無いことに好感を持った。

だからといって私は、気弱なのか、変なプライドのせいなのか、
単に面倒なのか、フレンドリーにはならない。いや、なれない。
チラシを机に置かれれば、「はい、どうも」と、
軽くお辞儀をする程度の対応だけ。
とはいえ、誰に対しても笑顔であいさつする彼女の健気な姿を見るたび、
「契約はとれてるのかな。がんばってほしいな。
オレは協力してやれないけど」と、無責任ながら心の中で応援していた。

ある時から彼女は、A5判のカラー用紙に手書きをしたペーパーを
配布し始めた。
そのペーパーには「おおしま通信」というタイトルがつけられていた。
彼女が、自分のことを知ってもらおうと思って始めた試みだった。

その内容に衝撃を受けた。
そこに保険の話は全くない。
あるのは、彼女のプロフィールと、中学時代から今に至るまで続けている
ソフトテニスの話だった。
驚いたのは、生年月日、血液型まで記載されていたことだった。
現代の個人情報保護社会に挑戦するような堂々とした内容だった。
そして、私と同じ、いて座のA型であることを知った。

「おおしま通信」第2号では、いちごカレーを食べたという話。
カレーもいちごも大好きだけど、
やっぱり別々に食べた方が美味しいですね、というありがちなオチに、
私が照れくさくなってしまった。

第3号では、アロマオイルにはまっているという話と、
唐突に出身小学校から出身大学までを列記していた。
第4号では、夜行バスで根室まで行ってきたという話と、
またしても唐突に自分の兄弟を紹介していた。

まさにブログに書くような内容である。
保険のことなど一切触れず、プライベート情報を書いている。
これが私の琴線に触れた。
面白すぎる。
保険外交員の女性が昼休みに配るチラシの概念を完全に覆した。

おおしま通信 

その後もきっちり毎週木曜日か金曜日に
「おおしま通信」は配布される。
先日ついに25号に達した。
その継続ぶりと律儀さには頭が下がる。
ほんとに素晴らしいことだと思う。
それと、手書きなのが実に良い。
文字フェチの私をくすぐるには十分なキュートな字体である。

私は札幌のとあるビルの4階で仕事をしている。
彼女はそのフロアの担当である。
おそらく300人くらいの人が勤務していると思う。
ということは、週に一度、300枚もの「おおしま通信」を
発行しているということだ。
毎週執筆し、A4判をコピーして、半分に切ってA5判にして、
という作業だけでも大変なことだ。

「おおしま通信」はその後も、ツボの話、早口言葉の話、
大通のビアガーデンに行った話、木下大サーカスを見た話など、
極めてプライベートな日常に触れた。
私はすっかり「おおしま通信」が楽しみになってしまった。

とある月曜日の昼休み、ふと気がついた。
「あれ?先週、おおしま通信、来てないんじゃないか」と、
いきなり隣の席の武藤氏に対して声を張り上げてしまった。
34歳である武藤氏は日頃から彼女と
比較的フレンドリーに会話をしており、
「おおしま通信」談義も時々している。
そんな武藤氏は、
「そうですね。先週はなかったですね。
 夏休みだったんじゃないですか。
 そんなに気になるなら、少し会話をすればいいじゃないですか」と、
苦笑しながら忠告してきた。
「いや、そういうわけにはいかないんだわ」と、
自らのどうしようもない羞恥心に屈するような返答をした。

こんなこともあった。
木曜日に「おおしま通信」の発行がなかった。
金曜日は朝から出張で、夕方に職場に戻ると、
机の上に「おおしま通信」が置かれていた。
あの喜びは疲れを吹き飛ばした。
私は愚かな中年だ。自他ともに認められても仕方ない。

それでいて、彼女の営業に協力してあげられないもどかしさ。
念のために申し上げておくが、恋愛感情などは全くない。
一生懸命な姿を応援しているだけだ。
強いて言えば、親戚のおじさんみたいな目でみているということだ。

「おおしま通信」を捨てずに保管している人は残念ながら
ごく僅かだろう。
職場内にある色つきペーパーやチラシ専用の廃棄スペースに、
「おおしま通信」が置かれているのをよく目にする。
そこは彼女が通る場所でもある。
彼女がそこを通るとき、捨てられているのを見たら、
どういう気持ちになるだろう。
それを想像したら、いたたまれない。
そこで私は、廃棄スペースに置かれた「おおしま通信」目にしたら、
別のチラシなどの間にはさめて見えなくする活動を
密かにさりげなく行っている。
私にできることはそれくらいのことだ。

「おおしま通信」は秋口からクイズを掲載することが増えた。
回答は翌週に発表されるパターンだ。
それがなかなか反響があるようで、
コミュニケーションを深めるツールとして功を奏しているようだ。

それはそれでいいのだが、
友達とハロウィン・パーティをしたとか、
久しぶりに実家に帰ったら兄が彼女さんを連れてきていたとか、
思わず微笑んでしまうような、どうでもいい話(いい意味で)を
私は期待している。

それはそれとして、毎週、楽しませていただいております。
ほんとにもありがとうございます。
保険外交員、また、23歳の女性として、
充実した日々を送られることを祈っています、LIFE GOES ON。
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こんにちは。
私も何となく保険勧誘の方が苦手でしたけれども、これはちょっといい話ですね。
私も「おおしま通信」、読みたくなりました。
【2012/12/22 05:20】 URL | SH #gt3YS3lE[ 編集]

SHさん、コメントありがとうございます。
SHさんも保険勧誘への抵抗感がありましたか。

「おおしま通信」の彼女は、これまでの保険外交員にありがちだった
「一方的なアプローチと押し」や「ずけずけ感」というものが
ないのが非常にいいです。

仮に彼女が金融機関にお勤めで、預金ノルマに苦しんでいるとしたら、
他の定期預金を中途解約して、たとえ利率は低くとも預けるのですが…。
【2012/12/23 00:42】 URL | 本人 #-[ 編集]

私の課も彼女が担当です。が、私はチラッと読んだことはありますが、電話取り次ぎとかメモの紙にしてます。保存しているとは、すごいですね。
【2012/12/24 12:00】 URL | 迷犬チーズ #-[ 編集]

迷犬さん、コメントありがとうございます。
しかし、おおしま通信の扱いに関しては指摘せずにはいられません。

「保存しているとは、すごいですね」
素っ気なさすぎる。距離感がありすぎる一言だ。
確かに保存している人など、ごく僅かだろう。
もしかしたら私だけかもしれない。
しかし、あの一生懸命さと微笑ましさは保存するだけの価値がある。
おおしま通信専用のクリアファイルを購入しようかと思っているほどだ。
ところが、A5判のクリアファイルは100円ショップに置いていない。
なぜそれを知っているかというと、実際買いに行ったからだ。
東急ハンズと大丸藤井には売っていた。
けれども、735円もしたので買わずに帰ってきたのさベイベー。
おおしま通信を絶賛するわりに、735円の出費をためらったのさ。
小さな人間で申し訳ない。
結局は自虐になってるじゃないか。

また、メモの紙にするのは、1階にある居酒屋のチラシにしていただきたい。
いや、無言で乱暴気味に置いていかれるあのチラシは
廃棄処分でもいいだろう。

貴氏は、「ちらっと読んだことがある」とのことだが、
文章のみならず挿絵にも注目していただきたい。
毎号、余白になにがしかの挿絵がある。
最近では、雪だるまの絵が描いてあり、
「インフルエンザに気をつけてください!!」というセリフが
書かれていたのを見て、思わず吹き出してしまった。
また、文面と全く関係ないのに、栗の絵が描かれていたことがあり、
絵の下に、「くり!!」と書かれていたときは、
どうしていいかわからなくなった。
このサブカルチャーぶりは、即座にメモ用紙にするにはもったいない。
【2012/12/25 00:02】 URL | 本人 #-[ 編集]

いつも楽しく拝見しております。

「おおしま通信」のおはなしは最高にお気に入りで、つい私のバンドのメンバーにもメールにリンク貼って、読むように送信した次第であります。
(実に評判がよかったです!)

さて、本日、このコメント欄に気がつき、コメントの概念をブチ破るコメントと呼ぶにはもはやブログ「おおしま通信 セカンド」となっている貴殿の先のRockなコメントを発見し感激いたしました!


栗の絵のくだりでは涙を流したことを申し添えます。

【2013/01/30 22:26】 URL | M.Nieze #nKP5dvbc[ 編集]

M.Niezeさん、コメントありがとうございます。
おおしま通信、意外に反応がありちょっと驚いています。
年末年始にかけて、おおしま通信に関して、
ちょっとしたアクシデントというか、トラブルがありました。
近日中にそのことをブログにて報告します。
おおしま通信に翻弄される私の迷走ぶりが窺えると思います。
またよろしくお願いします。
【2013/02/01 02:34】 URL | 本人 #-[ 編集]















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