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今回はブックレビューとして3冊を紹介。
いずれも読みごたえのある良い作品でした。
それでは、どうぞ。

■桜木紫乃「ラブレス」(2011年)
  桜木柴乃/ラブレス
昨年、北海道新聞にこの作品の書評が掲載されていた。
その中で、「この作品を読んでいたら、村上幸子という演歌歌手の
ことを思い出した」と書かれていた。
それが強く印象に残った。
村上幸子は1980年代に活動していたが、
1990年に31歳で亡くなっている。
この演歌歌手を想起させる作品とはどういうものか、ずっと気になっていた。

主人公の女性は、昭和10年ごろの生まれと思われる。
標茶町で極めて貧乏な生活を送り、中学を卒業すると奉公に出される。
奉公先でもこき使われ、あげく店主から凌辱まで受ける。
そんな生活に耐えられず、彼女は標茶町に巡業で訪れていた
歌芝居の一座に加わり、その後は歌手として各地を転々とする。

やがて一座は解散し、彼女は結婚、弟子屈町で暮らすことに。
子どもを授かり幸せな日々がくるかと思われたが、
夫の借金のせいで、弟子屈の温泉ホテルで働き始める。

とにかく壮絶な物語である。
前半は田舎の極貧物語を淡々と描いているが、
一座に加わる頃から一気に動き出し、どんどん引き込まれていく。
不運を引き寄せるような展開の連続は実に濃い。
脇を固める人々も、それぞれに個性が強く、
ストーリー上の使い方が非常に上手い。
彼女が出会った男性達に対する微妙な感覚も、よく描いていると思う。

終盤の彼女の娘にまつわるくだりは、
息が止まるほど胸が締めつけられ、自然に涙がこぼれてくる。
そしてザ・ピーナッツの「情熱の花」を無性に聴きたくなる。
やりきれなくて悲しくて、こうなるしかなかったのかと、
苦しみに近い切なさでいっぱいになる。
読み終えると、圧倒的な映画を観た後のような疲労感があり、
何日間も余韻が残った。

■中村文則「王国」(2011年)
  中村文則/王国

彼女の仕事は、
社会的要人の弱みを人工的に作ること。
例えば、ターゲットの男に睡眠薬を飲ませ、
ホテルの一室で情事があったかのような写真をとり、
それをネタに男を揺さぶる、というもの。
ある時、「あの男には関わらない方がいい」と忠告を受けていた
要注意人物がターゲットになり、事態は急転していく。

スピード感がありながらも、
施設育ちという彼女の過去や彼女を追う黒い組織が絡み、
スリルのある場面の連続で、ページをなかなか閉じられなくなる。
相変らずのスタイリッシュな文体も魅力だ。
ただ、これまでの作品に比べて、
良くも悪くも角がとれて読みやすくなった印象を持った。

彼女の職業や、月が随所に引き合いに出されることや逃亡劇など、
どことなく村上春樹氏の「1Q84」と重なる気がした。
それでも素直に面白く読めた、と言える。
読み終えると、ちょっとあっさりしていたかと思うところもあるが、
刺激的な独特の世界観を楽しめた。

■葉室麟「蜩ノ記」(2011年)
  葉室麟/蜩ノ記

第146回(平成23年度下半期)直木賞受賞作。
タイトルは、「ひぐらしのき」と読む。
時代は江戸時代の後期。
側室との密通により、藩の家譜編纂と10年後の切腹を命じられ、
貧しい農村に幽閉されている戸田。
彼の監視をするよう、そこに送り込まれた武士の壇野(だんの)。

壇野は、戸田と生活を共にすることで、彼の清廉さや慈愛に触れ、
また、密通は事実ではないことを知り、
なんとか切腹を免じてもらえないかと考えるようになる。

整然としていながら、音が聞こえ、香りがしてくるような豊かな文章。
穏やかな心で読み進められる。
理不尽で不条理な世界に凛として立ち向かう姿や、
切腹を前に娘と息子の将来に道筋をつける戸田の有り様は強く美しい。
そこまでしなければならないかと思うところもあったが、
そこまでするからストーリーに厚みと温かさが出るのだろう。

エンディングで、蜩(ひぐらし)が不意に一斉に鳴くシーンの使い方は、
なんともいえずジーンとくる。
柔らかな満足感を得られる素晴らしい作品である。
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テーマ:読んだ本の紹介 - ジャンル:本・雑誌





「蜩ノ記」がラジオドラマで放送されます。
NHKFM青春アドベンチャー6月18日から全10話です。
【2012/06/15 16:16】 URL | 今井 #Z0eBfVjg[ 編集]

「蜩ノ記」はラジオドラマにも合いそうですね。
ラジオ好きの私は、
STVラジオでやっている「北海道百年物語」を
地味に聴いたりしていまして。
コメント及び情報ありがとうございました。
【2012/06/16 00:22】 URL | 本人 #-[ 編集]















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