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札幌はまだ寒い。
特にこの1か月は、雨模様の日や風の強い日が多い。
震災ショックやストレスに、ヘルニア痛も重なって、
外出意欲が湧かない日々が続いている。
青空が見たい。

平日に少し遠くの小さな町に行った際、
夕方に帰宅する中高生や、
夕暮れにトラクターに乗って土を掘り起こしている農業者を見ると、
なんともいえずほっとする。
そんな何気ない風景が、小さな旅を豊かなものにする。
ただ、そのような景色は、丘珠でも毎日見られる。
丘珠が恋しいぜ、こんなに近くにいるのに。

今回は、ブックレヴュー。
よろしくどうぞ。

■百田尚樹「錨をあげよ」(2010年)
百田尚樹/錨を上げよ・上 百田尚樹/錨を上げよ・下
昭和30年、大阪で生まれた男が主人公。
彼の少年時代から30歳くらいまでの破天荒な人生を、
日本の高度成長、学生運動、200カイリ問題など、
当時の時代背景とともに描かれている。
2010年作品を対象とした本屋大賞でも第4位にランクされている。

主人公は相当のワルで、小学生の頃から悪事をやりたい放題。
高校時代は数回の停学を受け、落第もするが、
一念発起し、浪人の末、同志社大学へ入学。
しかし退学して、その後は職を転々とし、ドタバタの20代を過ごす。
いわば主人公の長い長い日記のような作品である。

主人公の短気ぶりと軽率さは全く共感できるところがなく、
次から次にしでかす悪事や強引な恋愛は、不快感を持たずにはいられなかった。
肯定的に見れば、一直線でエネルギッシュということになるが、
好き勝手をやっていながら、結局救われ、なんとかなっており、
ある意味、小さな幸せのために我慢し、耐えているのが虚しくなってくる。

ストーリーも一直線で疾走感があり、どんどん話は進んでいく。
その反面、広がりや深みがない。
登場人物も出来事も多いが、動機や経緯に乏しく、伏線も少なく、
ただただあったことを羅列している感じがした。
それに加え、上下巻合わせて約1,200頁に及ぶ大長編で、
1頁あたりの字数も多く、読み進めるのがきつかった。

その中で引きつけられたのは、主人公が20代半ばに
根室でウニの密猟をして過ごした数年間である。
この根室生活は力感あふれる面白さがある。
1980年頃なのだろうか、領海を越えて密猟し大金を得る。
ヤクザとのいざこざ、女性とのいざこざなどと相まって、
非常にスリリングで、物語の中に入っていけた。
ただ、やはり主人公に魅力は感じなかった。

筆者は何を描きたかったのか。
私の能力と嗜好ではそれを感じ取れなかった。
絶賛する人や感動する人はいる作品だとは思うが。

■桜木紫乃「凍原」(2009年)
桜木柴乃/凍原
釧路の警察署に勤務する女性刑事の物語。
釧路湿原で起こった殺人事件を追っているうち、
17年前に釧路湿原で起こった小学位の行方不明事件と、
戦後に樺太から引き上げてきたある女性の秘密が交差し、
思いがけない真相が明らかになっていく。

興味深く読めた。
というのが、戦時中と敗戦後の樺太における日本人の有り様は壮絶で、
特に引き上げ船に乗るまでは迫力があった。
その後、留萌(おそらく沖美町)に数年住むのだが、
そこでの過酷な生活も、引きつけられるものがあった。

微妙に登場人物が多いが、名前やキャラクターに強い特徴がなく、
途中で久しぶりに登場すると、誰だったのかわからなくなる。
前半、脇役として登場した人物が、後半になって実は真相のカギを
握る人物であるという展開をするだけに、
人物の棲み分けをもっと明確にしていれば、
もっとストレートに衝撃を受けたかもしれない。

雰囲気としては、全体的に薄暗さがあり、
釧路の霧のごとく、もやっとした感じもあるが、それは決して悪くない。
ただ、展開に層が足りないというか、つなぎが弱い感じがするため、
衝撃性のある内容なのに、なんとなくあっさりしている。

私は筆者の今後に期待している。
今後、もっともっと面白い作品を書けるような気がする。
直木賞候補になってもおかしくない力量があると思う。
筆者は釧路市出身ということもあり、道東を舞台にした作品が多いが、
決して道東の良いところではなく、むしろ閉塞感や厳しさなどを
描いているのに、むしろそれに触れたくて、
道東に足を運ぼうかという気にさせる何かを持っている。

■桐野夏生「優しいおとな」(2010年)
桐野夏生/優しいおとな
桐野夏生作品は新作が発刊されれば必ず読むのだが、
2007年の「メタボラ」より後の作品は、
何かつかみどころのない感じがしている。
この作品も、今ひとつピンとこなかった。

舞台は100年後くらいの渋谷で、
スラム街と化している設定となっている。
主人公は15歳のホームレスの少年。
他のホームレスと折り合わず、孤立して生活している。

彼は親もなく、自分のルーツがわからない。
それを探して、やがて、東京の地下に複雑に広がる空間に足を運ぶ。
そこには多くの人が暮らし、独自のコミュニティを築いていた。
少年は地下世界のルールの中でもがきつつ、次第に成長していく。

そんな内容なのだが、筆者が作った近未来の世界に、
私の想像が追い付けず、ちんぷんかんぷんな箇所が複数あった。
また、強気で他人を寄せ付けない主人公の少年が、
地下世界へ向かう段階になると、唐突に気弱で、すがるような雰囲気となり、
その変化を埋めるような記述が足りないというか。
そのため迫ってくるものがなく、感情を共有できない。
私の想像力不足のせいかもしれないが。

捉えようによっては、アメリカの映画にありそうな世界観で、
映像にした方が、良さが出るような気がした。
なお、「大事な人がいると自分のことしか考えられなくなる。
愛情は深ければ深いほど、どうでもいい他人を傷つける力が強大になる」
との記述は、さすが桐野夏生だなと。

■有川浩「阪急電車」(2008年)
有川浩/阪急電車
関西圏を走る阪急電車の路線の中で、
兵庫県にある今津(いまづ)線を舞台とした連作短編集。
今津線は、西宮市と宝塚市を結ぶ8駅、片道15分の路線。

気になっていた異性との電車内での偶然の出会い、
ひどい振られ方をしたOL、小学生のイジメ、
周りの迷惑を顧みず好き勝手し放題のおばさん連中など、
作品ごとに様々な人が登場。
これらの人が、やがて何らかの形で交わっていくようになり、
作品全体として厚みのある内容になっていく。
寄せ集めた感じではなく、自然に流れていく感じがいい。

文章に派手さや大きな特徴はない。
それでいて必要なものは過不足なく描かれ、
かといって詰め込みすぎている感じはなく、
文章が上手な人の文章だなと思う。

この路線を知っている人にはたまらなく愛おしい作品ではないか。
西宮や宝塚などまるで知らない私にとっては、
人物や電車内の様子は目に浮かぶのだが、
電車の窓から見える風景や、駅前の様子がイメージできない。

結果的には前向きなストーリーである。
小さな勇気や、苦しい状況でも毅然とあることを、
さらりとしながらも、優しさと強さを持って表現している。
押し付けがましさがないのに意志が伝わる。
共感しやすい要素は多い。
特に、偏見かとは思うが、女性ウケしそう。

結果的にうまく行きすぎかなと思うところはあるし、
ほのぼのさや暖かさよりも、もう少し密度のある状況設定がほしいかなと思うが、
小学生の女の子の強さや、女子大学生のいじらしさに、
思わずほろっときてしまったのは事実。
人気作家の代表作というのも頷ける。

   ◇     ◆     ◇

できるだけのことをしたい、というのは、
自分が何かをしたり、与えたりすることだけではなく、
四の五の言わず受け入れることも、「できること」なのではないか。
理屈ばかりこねて、できることすらしない。
復興は遠のくばかりだ。
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学



















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