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何年か前に、札幌のとある居酒屋で酒を飲んでいたら、
ザ・ローリング・ストーンズの「PAINT IN BLACK」が流れた。
その次はザ・ジャムの曲、続いてクリームの曲が流れた。
「塗るものばっかりじゃねえか!」と心の中で突っ込んだ。
心で思っただけで、言葉にはできなかった。
なぜなら、私は小田和正だからだ。
いや、違う。
一緒に飲んでいた人達の中に、ザ・ジャムやクリームというバンドを
知っているであろう人がいなかったからだ。
ただ、その人達は、小田和正氏の曲は、
もちろん(※1)知っていたと思うが…。
(※1 「もちろん」と「オフコース」がかかっている)

では、ジャック・ジョンソン、クイーン、キャロル・キングの曲が、
あるいは、カルチャークラブ、ニール・ダイヤモンド、
トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの曲が
立て続けに流れてきたら、なんと突っ込むだろう。

そう、「トランプばっかりか!」である。

そこで今日は、「思い出トランプ」のことを話したい。
「思い出トランプ」は、昭和55年に刊行された向田邦子氏の小説である。
これには、13の短編が収められている。
だから「トランプ」なのだろう。

思い出トランプ

素晴らしい作品である。大傑作である。
「これまで読んだ小説で特に心に残ったものは?」と聞かれたら、
必ず思い浮かぶ作品だろう。
そして、それを言葉にできるだろう。
なぜなら、私は小田和正じゃないからだ。

13の短編はいずれも、昭和50年頃の家族生活を描いている。
夫婦がいて、その親、その子供、親戚、夫の職場の人間などが登場する、
ありふれた日常が描かれている。

しかし、その「ありふれた日常」の裏には、秘密、裏切り、動揺、絶望など、
穏やかではない感情があり、それを見事に描いている。
その人が以前に言った言葉や、とった行動、
また、例えば煙草だったり、包丁だったり、そういう小道具を使って、
感情をきめ細かく、そして深く描いている。
この感情の動きに、どんどん惹きつけられていく。

また、文体の切れ味が良く、無駄がなく、的確に描写しているため、
すぐに映像が浮かんでくる。
そして、展開に合わせて、映像がスパッと切り替わる。
それでいて、味わいも余韻もしっかりある。

ストーリーだけ見ると、よくある日常の一部である。劇的でもない。
むしろ、うす暗く、湿り気のある話が多い。
なのに、引き込まれていく。
要は、切り取り方が上手なのだ。
そして、向田邦子氏の文章力により、非常に面白くなるのだ。
展開における波が高い部分と穏やかな部分、
スピードがある部分とスローな部分のバランスが絶妙である。
まさに、文章に引力を感じる。すごい才能とセンスである。
これが「文学」なのだと圧倒される。

特に、13の作品の中でも「かわうそ」という作品は秀逸である。
こんなにまで人間の感情を言葉で見事に表せるものかと、鳥肌が立つ。
ほんとうに心が震える。
こういう作品に出会えたことに幸せを感じたし、
これだけの作品には、生涯でも滅多に出会えないと思った。

ほかにも「はめ殺し窓」、「三枚肉」、「大根の月」など秀作がある。
そのどれもが味わい深く、でもドキッとさせられ、
最後には、なんとも言えない気持ち、
なんというか、さわやかだけど切ないような気持ちになる。
そんな気持ちが「思い出トランプ」という本のタイトルにも
つながっていると思う。

この作品が、文庫本(新品)で420円である。
「かわうそ」という14ページで終わる1作品だけでも
420円以上の価値がある。
420円の現金がない方は、
トランプだけに、「カード」で支払うのもいいのではないか。
クグ丸です。
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「かわうそ」はよかった。今日は富士山を見に、秦野まで行ってきた。ちょっとした山登りだったが、かなりこたえた。11/1から3泊4日で大阪から岩国まで定番コースを巡ってきた。
【2007/11/14 15:19】 URL | ヘロ #-[ 編集]

この「ヘロ」氏は、年に1、2回しか話す機会のない
高校の同級生と思われます。
高校時代、共にモッズやアナーキーのコピー・バンドを
やりました。
「ヘロ」氏は、高校時代、不必要なまでに
髪が立っていたせいで感じませんでしたが、
いつからか結構な読書家になりました。
2年前にもおススメ本を教えてもらいましたが、
あまりにマイナーで、
紀伊国屋書店でも見つけられなかった記憶があります。
何という本だったかも忘れてしまいました。
また教えてください。
【2007/11/17 13:30】 URL | クグエSW #-[ 編集]















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