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今回はブックレヴュー。
3冊を紹介。
よろしくどうぞ。

■道尾秀介「球体の蛇」(2009年)  
         道尾秀介/球体の蛇
主人公は高校2年生の男子。
両親は離婚し、母は家を出て、父は単身赴任。
そのため、幼少の頃から懇意にしている隣の家で暮らしている。
隣の家族は、父と中学三年生の娘(次女)の二人暮らし。
母と娘(長女)を数年前に事故で亡くしている。

ある日、亡くなった長女に似た女性(20代)を見かける。
主人公の男子は、彼女のことが気になって仕方なくなる。
異常な執着心の末、彼女と知り合いになり、
彼女の家にも訪れるようになる。
次第に仲が深まるうち、彼女が、隣家の母と長女が亡くなった事件に
関わりがあることを知る。
果たして真相は。

もう、なんとも変な感じで引き込まれる。
道尾作品らしい不吉な気配を漂わせながら、
薄もやの森の中へ引きずり込んでいくような展開。
行動の異常性や、どぎつさなど、読んでいて痛くなるが、
ぎりぎりのところで、すっと抑え、流麗な雰囲気にしてしまう。
陰鬱なことを品良く描いてしまえる、ほんとに世界を持った作者だと思う。

過去の過ちをひきずって悶々と過ごし、時に爆発してしまう。
特に、亡くなった長女に似た女性にのめり込んでいく様は怖くもある。
愛しさと優しさと衝動が入り交じり、結局傷ついてしまうような、
なんともいえない切なさがある。
きゅんとなるような切なさではなく、哀しい切なさである。

エンディングにおける逆転した真相は、果たしてほんとうなのか、
また、それは、希望なのか、後悔なのか。
もやっとしたところはあるが、驚きと切なさが、もやっと感を超え、
なんともいえない確かな余韻を残してくれる。

ただ、「球体の蛇」というタイトル。
なんとも馴染みにくい言葉で、全くピンとこない。
読み終わっても、このタイトルにした理由や効果がわからない。
彼の昨今の作品、「光媒の花」(こうばいのはな)の「こうばい」や、
「龍神の雨」(たつじんのあめ)の「たつじん」などにしても、
すっと入り込めず、読んでみようという気持ちの壁になっている。
ところが読んでみると、引き込まれる。
この「球体の蛇」は、これまでの道尾作品の中で、一番良かったかも。

■大崎梢「夏のくじら」(2008年)
         大崎梢/夏のくじら
主人公は四国・高知の国立大学の1年生。
高校まで東京で暮らしていたが、高知にやって来た。
そんな彼の、「よさこい」とともに過ごした夏を描いている。

札幌では、よさこいソーラン祭りが、すっかり定着し、
今や季節の風物詩といっていいほどである。
90年代は、よさこいソーラン祭りに相当な距離を置いていたが、
ここ数年は、なんら意見することなく傍観できるまでに私は寛容になった。

この作品を読んでみたのは、よさこいが、どうのこうのではなく、
青春小説として、じわっとした感動を味わえるとの書評を読んだからだ。
それと、私が行ってみたい都道府県ランキングで、
高知県は、沖縄県、長崎県とともに、確実に上位に入るからだ。

よさこいが、チームとして成立する過程を親切に書いている。
その中で印象に残ったのが、
高知では、「今年はどこのチームで踊ろうか」と、
毎年、チーム選びをする踊り手がたくさんいること。
また、人気の踊り手は、数チームから誘われること、である。
毎年、同じチームで踊るのが当たり前だと思っていたら、
高知では、どうやら、そういうわけでもないようである。
それが興味深かった。

物語は、なかなか前に進まない感じがして、
私の読書リズムとは、ちょっと合わなかったかなと。
展開が遅い中、主人公はいつのまにか、よさこいにはまり、
急に上達したように思えて、いまひとつ感触も得られなかった。
踊りの描写も、うまくイメージできなかった。
これは、私のよさこい力の低さも大きく影響しているだろう。

また、よさこい活動と平行して、恋愛も絡んでくるのだが、
主人公の熱い気持ちが伝わらず、なんとも歯がゆかった。
とにかく、全体を通して、じりじり感とふわふわ感があり、
なかなか気持ちが乗らず、読書速度も鈍った。

ただ、これを読んで、よさこいを見たくなる人は多くいると思う。
素直に青春小説として、高い評価をする人も多くいるだろう。
実際、タイム&マネーに余裕があれば、
私も、本場高知のよさこいを見てみたい。

ハッピーエンドの加減は良かった。
ひとつ大人の階段を上がったような清々しさと暖かさ。
それでいて夏の終わりのように、ちょっと寂しい。
それがなんであれ、何かにかけた夏はいいなあと素直に思える。

■乾ルカ「あの日にかえりたい」(2010年)
         乾ルカ/あの日にかえりたい
札幌出身の女性作家の作品。
6作の短編が収録されており、全て舞台は北海道。
どの作品も、「死」をベースにした内容である。
なお、漢字にかなり振り仮名がつけられていることから、
小中学生が読むことを考慮したものと思われる。

6作を簡単に紹介しよう。
「真夜中の動物園」
  ~寂れて入園者が乏しかった頃の旭山動物園

    と思われる動物園を舞台にした小学生の成長物語。
「翔る(かける)少年」
      ~北海道南西沖地震で被災した小学生と
その母親の話。
「あの日にかえりたい」
      ~特別養護老人ホームに入居している
偏屈なじいさんの人生に
          まつわる話。この老人ホームは真駒内ふきんではないかと予想。

「へび玉」
   ~高校卒業の時、15年後にまたここに集まろうと
          
約束した5人の女子高生の、15年経った今の話。
did not finish
      ~競技中に転倒した
プロスキーヤーが、死の間際に浮かんだ過去の話。
「夜、あるく」
      ~東京から札幌に転勤した女性が、
夜に近所をウォーキング
          している時に出会ったおばあさんの話。


どの作品も、なんというか途中から書き始めているような感じがして、
ストーリー上、どのあたりの位置を読んでいるのか、
なかなか把握できず、話の中に入っていくのに時間がかかった。
後半にきて、ストーリーはつながりを見せるものの、
次第につながっていくドキドキ感にも、ちょっと乏しい気がした。

とはいえ、読み終えると、心温まる作品だったと思える。
と同時に、思わず不意に涙してしまう作品もある。

「翔る(かける)少年」に登場する母は、小学生の父の再婚相手。
母と小学生は、なかなか上手くやっていけずに日々を過ごす。
そんな時に起こった南西沖地震。
後になって、実は二人とも、お互いに仲良くなりたかったことを知る。
ある瞬間から、突如、涙腺が緩んでしまうこと必至。
切なくて、悲しくて、胸が締めつけられ、
少しの間、何もできなくなってしまった。

「へび玉」も良かった。
この作品の舞台になっているH高校は、
15年前と現在とを比較した周辺地域の変化や、
JR線と地下鉄駅の位置関係などからして、
札幌北陵高校をイメージして描かれているのではないだろうか。
準主役の女子生徒は、隣町のA町からJRで通っている。
このA町は、
当別町を想定したものだろう。

高校卒業から15年。現在33歳の女性。
目の下のたるみ。鼻から口元への皺。張りをなくした頬。
そんな老いの気配に憂鬱になる毎日。
それに対して、終盤、準主役の女子生徒が言ったこと。
このセリフで、一気に泣けてしまいます。

今、ぱっとしない毎日や苦しい毎日を送っているとしても、
何年か、あるいは何十年か経ったとき、
かえりたい「あの日」は、もしかしたら「今」になるかもしれない。
そんな気持ちで歩き続けなきゃいけないぜ。
生きていることに感謝。
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テーマ:読書メモ - ジャンル:本・雑誌





クグエさん、びっくりしました。ちょうど今通勤の
愛読書に道尾秀介「シャドウ」を読んでいて、
次の道尾秀介は何を読もうか考えていたところです笑。
今日からクグエさんをブラザーと呼ばせていただきます笑。
【2010/11/16 19:30】 URL | bull #35BUUDj.[ 編集]

bullさん、どうも。
すごい偶然ですね。
「シャドウ」は未読なのです。
道尾秀介の代表作でもあり、読まなければと思っています。
不吉で不気味な道尾ワールドは凄いですね。

ちなみに私は職場の昼休みが、貴重な読書タイムなのですが、
まだ文庫本化されていない作品を読むことが多いため、
重たい単行本を持ち歩いています。地味に厄介です。
【2010/11/17 01:14】 URL | クグエSW #-[ 編集]

こんにちは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
【2010/11/17 03:50】 URL | 藍色 #-[ 編集]

藍色さん、コメントありがとうございます。
たくさん読んでますね。
参考にさせていただきます。
道尾秀介は、ミステリー系が好きな読者の間では欠かせない存在ですが、
一般的にはいまひとつメジャーじゃない加減が丁度いいです。
ただ、この2、3年、出版しすぎじゃないかと心配にもなりますが。
【2010/11/19 00:18】 URL | クグエSW #-[ 編集]















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1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサ... 粋な提案【2010/11/17 03:09】

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