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私の選ぶ「2008・ブック・オブ・ザ・イア」
グランプリを獲得した、湊かなえ氏の「告白」。
これが映画化され、現在上映されており、先日見に行ってきた。

わざわざ映画化したことの意味を感じさせる映像の妙は、
あまり感じなかったが、
やはり、映画館の巨大スクリーンによる迫力はあった。

良くも悪くも、小説から想像される小数点のような端数は、
映像では切り捨てられ、ポイントが明確になっていく。
それによって、女性教師の冷酷さ、中学生の不愉快さは、
小説よりもくっきりと浮かび上がっていた。
これは、R-15じゃなきゃしょうがないと思わせる「どぎつさ」があった。
自宅でDVDで見ても、この「どぎつさ」は感じるはず。
徹底して救いようがないのが、逆に功を奏した作品だと改めて感じた。

さて今回はブック・レヴュー。
よろしくどうぞ。

■桐野夏生「IN」
桐野夏生/IN
2009年作品。
主人公は、女性小説家。

彼女が現在執筆している作品は、
今はもう亡くなった男性小説家の、かつてのベストセラー作品に
登場する不倫相手の女性を題材にしている。
そのベストセラー作品は実話であると話題になり、
不倫相手の女性も実在したと言われた。

主人公である女性小説家は、不倫女性は誰だったのかと、
取材に駆け回る。
ただ、不倫女性は他界しており、なかなか情報が集まらない。
一方、女性小説家自信も不倫をしており、
自らの不倫と小説の中の不倫女性を微妙に重ねる形で、
欲望、憎悪、執念、情念など、様々な感情を綴っている。

桐野作品には珍しく、サクサク読めなかった。
あらすじや登場人物が混沌としており、ちょっとわかりにくい。
また、展開が停滞し、だらだらと行ったり来たりする場面があり、
本から離れられなくなるような引き寄せ度は低めだったかと。

ただ、やはり文章は秀逸。
用いる言葉のチョイスは別格に上手いし、
静かに圧倒していくようなリズムの作り方は見事。
いい大人であっても、恋愛に本気になればなるほど、
ちょっと滑稽で、コミカルになる部分がある。
それをさりげなく、でも、強く印象づけるような書きぶりは、
彼女の真骨頂なのかなと。

心に「IN」されている、どろどろな部分も、透明な部分も、
上手にあぶり出しているし、淫も、隠も、因も、陰もある。
ただやはり、あらすじが複雑、というか面倒くさい感じに
なっているのが、なんとも惜しいかなと。

■有栖川有栖「幽霊刑事」
有栖川有栖/幽霊刑事
2000年作品。
主人公である刑事は、ある日上司に呼び出され、
射殺されてしまう。
ふと目を覚ますと、射殺された場所にいた。
あの人同じような景色だ。
だが違ったのは、自分の身体が半透明になっていることだった。
意志はある。しかし、人も物も、自分の身体をすり抜けていく。
そう、刑事は幽霊となって、この世に帰ってきた、というか、
あの世に行けなかったのだった。

空を飛べるなど移動は自由だし、どこへでも潜入できる。
しかし、誰の目にも映らず、声は届かず、何かに触れることもできない。
犯人は上司なのだと、同僚の刑事に伝えたいが、その術がない。
そんなある時、一人の後輩刑事が、幽霊刑事の存在に気づく。
半透明ながら姿が見えるし、会話もできた。
幽霊刑事は後輩刑事と組んで、上司逮捕の証拠探しを始める。
その矢先、犯人である上司が殺されてしまうのだった。

ここまで書くと、ミステリアスな作品に思えるが、
実にライト感覚で、有栖川氏らしいコミカルさも交えて描かれている。
上司を殺害した犯人は誰か、なぜ犯行に及んだかというミステリ要素は、
中盤、興味深く引っ張るし、思わぬ展開もある。
しかし、土壇場にきて、バッティングに例えれば、
内野フライのような物足りなさが残ったかなと。

一方、ラブストーリー的な要素は、最後に上手く締めた。
幽霊刑事には、婚約中の女性がいた。
幽霊になってから、意志の通じる後輩刑事を介して、
彼女との意思疎通を図ろうとするが、
気持ち悪がられたり、疑われたりして、徹底的にすれ違う。
しかし、ラストには通じ合う。
その通じ合い加減が絶妙。
抑制が利いており、それが一層切なくさせる。

幽霊刑事が、引き出しを開けようとして開けられなかったり、
小さなミスを犯して、穴があったら入りたいと思ったら、
既に誰の目にも見えないことに気づくなど、コミカルに切ない場面。
また、母の居る実家に帰り、母がテレビを見ながら、
小さく笑ったことに安堵したりと、ストレートに切ない場面。
そして事件の真相。
幽霊視点というファンタジーさや、都合のいい展開はありつつも、
うまくまとめられ、しっかりと惹きつけられた作品だった。

■本多孝好「MISSING」
本多孝好/MISSING
1999年作品。
5作の短編で構成されており、全作、「死」が軸になっている。
どれも決してソフトな内容ではないのだが、
静かで抑制の利いた筆致が、透明感のある不思議な空間を演出し、
切ない痛みのような余韻を残す。

5作とも、短編ながら、中途半端なところはなく、
流れるような展開の中に、それなりの深みを作り、
きちんと完結させている。
なんとなく女性の支持の方が高い世界観かなと。
また、40代よりも20代の心に強く響きそうな気がする。

「眠りの海」という作品は切なかった。
人付き合いが苦手で、義務的に仕事をこなすクールな高校教師。
彼が、生徒と恋に落ちてしまう。
やがてバレて、生徒は退学の危機に。
全てを捨てて付き合うか、それとも別れるか。
それを話し合う深刻な夜、生徒はおどけて明るく振る舞う。
それがたまらなく切ない。
その後の彼女がとった行動もまた切ない。
彼女の人生をかけた恋、それにきちんと気づけなかった教師。
べたで、気恥ずかしいところもあるが、感傷的にさせられた。

「瑠璃」(るり)という作品も良かった。
いとこ同士の、淡くもどかしい恋を描いている。
12歳の少年は、いとこである16歳の少女に憧れている。
16歳の少女はハチャメチャで、
いとこである12歳の少年をひっかき回す。
しかし、何事にも毅然として、自由に生きている少女に、
少年は憧れを抱く。

二人の会話のやり取りは、スタイリッシュな洋画にありそうな、
クールでウイットに富んでいる。
「その年齢で、そんな会話しないだろ」とは思いつつも、
10代の背伸びぶりが、なんともやるせない。

やがて、少女は20歳になる。
常に自分を持ち、タフなハートを持った彼女だったが、
不倫の渦に巻き込まれていく。
人は誰でも大人になるし、変わっていくものなのだということが、
じわじわと水がしみ込むように胸に広がっていく。
共感できるかどうかはわからないが、
理解できる、思春期の青臭さや青春の儚さを上手に描いている。

    ◇      ◆      ◇

こういう作品を読むと、若い頃はやはりピュアだったのだと思わされる。
思いのまま突っ走ってしまうような危険な部分もあり、
痛みを伴う場合もあったが、なんとなく良かったようなところがある。
それは錯覚かもしれないし、美化されているとも思う。
そして、あの日に帰れない無常観と、
あの日に帰っていては生活していけない現実。
こうしたものが相俟って、ノスタルジアとセンチメンタリズムを生む。

もう戻れないことは、決して悪いことじゃない。
というか、その都度戻れる人生など、たまったもんじゃない。
それなりに年をとり、後悔を抱えて生きることこそ人間的だ。

余談だが、年齢のわりに、老けない風貌というのは、
逆にちょっと気持ち悪く感じるときがある。
関根勤氏や由美かおる氏の老けない感じは、ちょっと妙でもある。
ついでに言うと、全て悟ったかのような穏やかさや微笑が、
ちょっと怖く感じる時がある。

なんというか、ジタバタしつつも平穏に、
自然な積み重ねと減退の流れの中で年をとりたいものです。
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