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今回は本の紹介。
三冊紹介します。
シェゲナベイベー。
よろしく。

■中村文則「掏摸」
   中村文則/掏摸
タイトルは「すり」と読む。
盗みを意味する「スリ」である。
主人公は、プロのスリ師である青年。
スリのターゲットは、現金を多く持ち歩く裕福な者ばかり。
気づかれずに財布を奪い、現金を抜き取って、郵便ポストに入れる。
郵便職員は財布を警察に届け、結果的に被害に遭った本人の元へ戻る。
そんな手口を繰り返す。

彼の天才的な仕事ぶりに目をつけたのが、ある犯罪組織。
その犯罪組織は、彼に対して三つの仕事を要求する。
それができなければ、命を奪うという。
果たして彼は成し遂げられるか。

まず、スリの描写に引き込まれる。
手法もさることながら、その時の心理状況も迫力がある。
例えば、このような場面がある。
「息をゆっくり吸い、そのまま呼吸を止めた。
 財布の端を挟み、抜き取る。
 指先から肩へ震えが伝い、暖かな温度が、
 少しずつ身体に広がるのを感じる。
 周囲のあらゆる人間、その無数に交差する視線が、
 この部分だけは空白に、向けられていないとわかるように思う」

この濃密さと緊張感。そして官能的でもある。
彼は世の中に絶望しているし、あきらめている。
彼の行動と心理には、常に「このどうしようもない世界」が
根底にあるように思えた。
戦う相手は、犯罪組織でもなく、裕福な者でもなく、
「このどうしようもない世界」であることが行間から滲み出ている。

そんな虚無感に包まれた彼の心を動かしたのが、
スーパーで盗みをはたらく小学生と出会ったこと。
小学生の境遇を知るにつれ、次第に親しくなっていく。
ところが、その点を犯罪組織につけ込まれ、
小学生との信頼関係が、弱みになっていく。

非常に面白かった。
というか、文学作品として、すごく良かった。
ロック・テイストを感じる硬質な文体で、
疾走感と妖艶さがある歌詞のようでもある。
初期のブランキー・ジェット・シティの歌詞世界とも重なる。

癒しや温もりが全くない乾いた毎日。
孤独とあきらめの人生。
あまりに救いようがなくて、
読んでいて辛くなる方もいるだろう。
私は、都会の喧噪の中にひっそりと流れる、水のない川のような世界観が、
たまらなくスリリングであり甘美でもあった。
読み応えがありました。

■三浦しをん「神去なあなあ日常」
三浦しをん/神去なあなあ日常
「本屋大賞2010」における第4位の作品。
三重県の山奥にある「神去村」(かむさりむら)という架空の村が舞台。
この村の主産業は林業。
主人公は、進路が決まらずに高校卒業を迎えた、東京在住の18歳男子。
卒業式の直後、突然、担任に「就職が決まったぞ」と言われる。
担任と母親によって、勝手に、神去村で林業研修生として働くことが
決められてしまったのだった。
そんな若者の、神去村における1年間の生活ぶりを描いている。

この村は、ローカル線の終点の駅から、
さらに山奥深く入ったところにある。
人口は千人に満たない設定だろう。
携帯電話は通じない。
そんなところに、いきなり連れて来られ、うんざりするものの、
林業を学び、自然に触れ、地域の人々にもまれ、
次第に馴染んでいく姿は、ほのぼのとした小さな感動がある。

山と川と木に包まれた、スローリーな時間の流れ。
冠婚葬祭は、村人全員が仕事を休んで、総出で対応。
自然に敬意を表するような様々なエピソードは、
山奥の小さな村の世界にじんわりと引き込んでくれる。

ただ、展開がゆるい。
また、神隠しだとか、天女だとか、ファンタジー要素が多く、
想像が追いつかない。
というか、私の想像とは別方向に世界が広がっている箇所が多く、
読み進めるのに苦労した。

実は単なる林業体験日記であり、山奥での生活日記であり、
それ以上でもそれ以下でもないというか、何も迫るものがなかった。
ただ、ほのぼの、のんびり、ややコミカルで、
その点では女性ウケしそうだし、
本屋大賞に選出される作品らしいかなと。

タイトルは「かむさり・なあなあ・にちじょう」と読む。
なんともリズム感の悪いタイトルである。
読みにくいし、ぴんとこない。
ストーリーや世界観など、決して悪い作品だとは思わないし、
林業の素晴らしさを上手に描いていると思う。
ただ、タイトルの親しみの無さが終始気になり、
評価に影響したことは否めない。

■木内一裕「藁の楯」
木内一裕/藁の楯
大資産家の孫が殺害された。
犯人は早々に特定され、指名手配となる。
仮に犯人が捕まり、裁判にかけられても、
刑期を終えれば、社会に戻ってくる。
大資産家は、それが我慢ならなかった。
犯人が死ぬことでしか満たされなかった。

そこで大資産家は、犯人を見つけ出し、殺害した者に10億円を与えると、
懸賞金をかけた。
犯人を殺し、刑務所に入ることになっても、
10億円があれば、刑期を終えた後、思いのまま生きていける。
そう考えた多くの者が、犯人捜しと犯人殺害を狙う。

何日かして、犯人は福岡の警察署に自首する。
何度も殺されかけ、警察署に逃げ込んだのだった。
犯人は、東京に移送することになった。
ところが、移送途中に命を狙いに来る者、多数。
さらには、移送や警備を担当している警察官の中にも、
犯人を殺害しようとする者が現れる。
果たして、犯人を東京まで移送させることができるのか。

展開がさくさくしていて、場面変化もスピーディ。
結構ハードで、ボイルドでもあり、アクションも多く、
読み出したら、やめられなくなる面白さがあった。

ただ、全体的にストーリー先行で、
印象に残るフレーズや哲学に乏しいかなと。
小説には書かれていた心理状況や背景が、
映画化されると出来事優先で、省かれてしまうことがある。
そういう雰囲気があった。
つまり、書きぶり自体が映画的に思えた。

文学的な深みがもう少し欲しいかなと思うが、
そうすると、息をつかせぬスリリングさは影を潜める気もして、
こうしたバランスは難しいものである。

    ◆     ◆     ◆


「なんか、いい話ない?」と聞くのが口癖の人は、
実は、別に、相手のいい話なんか聞きたくないんだろうなと思う。
単なる挨拶なのだろう。
ところが、「何も、いい話がないですね」と答えると、
いい話がないことを微妙にけなす。

と、いいますかね、
「なんか、いい話ない?」と聞くのが口癖の人は、
ほとんどが胡散臭いわけで、

たとえいい話があっても、
決して話したくない人だったりするわけです。

でも、そんなことはどうでもいい。
週末を楽しもうぜ。
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テーマ:ブックレビュー - ジャンル:本・雑誌





おはようございます。
昨日はまた本屋さんに長居してしまいました。
「横道世之介」を見つけ…たけれど、もう少し後に読むことにして、違う本を購入しました。
しっかりクグエさんのブックレビューをチェックしてから行けば良かったと思いながらも、タイトルやジャケットやあらすじなどから、3冊選んで購入してきました。
今度は、「横道世之介」と、この記事の「掏摸」を読んでみたいと思いますe-121
【2010/06/22 07:16】 URL | yoshimi #-[ 編集]

yoshimixさん、コメントありがとう。
「横道世之介」を薦めたある人、である私にとっては、
ぜひ読んでいただければと思います。

君は「野菊の墓」なども読んでいるのだな。
古い作品もきちんと読んでいるのには頭が下がるぜ。

先日、三浦綾子作「塩狩峠」を読みました。
昭和48年の作品です。
かなり引き込まれた壮絶な作品でした。
そして、「塩狩峠」が実在することを知りました。
和寒町と比布町の間にあるんですね。
高速道路無料化政策にはネガティヴな私ですが、
高速道路無料化を活用して最初に行こうと思っているのは塩狩峠です。
現地を訪問してから、レヴューしたいぜベイベー。
【2010/06/22 22:26】 URL | クグエSW #-[ 編集]

 塩狩峠は桜がきれいです、今年は行けませんでしたが。こんにちはお元気ですか、カルパッチョ田中です。
 6/28からの高速道路無料化で旭山動物園が
混むかもしれない、と思い、先週金曜日に
あわてて動物園に行って来ました。
 平日の夕方だったのでお客さんもそこそこで、ペンギンの水中トンネルはスカスカ。行ってよかったです。
【2010/06/23 11:49】 URL | カルパッチョ田中 #-[ 編集]

カルPチョさん、コメントありがとうございます。
カルPチョさんは塩狩峠ヴィジターなんですね。
塩狩峠の駅で起こった壮絶な事故。
今も記念碑みたいなのがあるとか。
あそこ国道に、そういうのがあったかなぁ、安宅さん、
と思いつつも、訪問したいと思います。
【2010/06/24 23:42】 URL | クグエSW #-[ 編集]















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