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野球のある場面。
ノーアウト・ランナー一塁でバント失敗。
強攻策に出るも、内野ゴロでダブルプレー。
次のバッターがヒットを放つ。
すると、「ちぐはぐな攻撃だ」と言う解説者や新聞記者がよくいる。
次のバッターがヒットを打ったから言われる。
次のバッターが、「ちぐはぐな攻撃」にしてしまったかのように。
凡退していれば、何も言われなかった。
ヒットを打ってしまったがために、
まとめて、ちぐはぐな攻撃仲間にさせられる。

やりきれない話だ。
わけがわからない。
しかし、ここで延々と訴えても仕方ない。
なので、今回は3冊をブック・レヴュー。

よろしくどうぞ。

■佐々木譲「廃墟に乞う」
        佐々木譲/廃墟に乞う
第142回(2009年下半期)直木賞受賞作。
主人公は、休職中の道警の刑事。
休職の理由は、親切には書かれていない。
ある事件をきっかけに、抑うつ系の病気になったらしい。
休職中ではあるが、有能な刑事であったようで、
事件を解明してほしいと、次から次に、様々なところから依頼が入る。
しかし、休職中の身であるため、
現場に立ち入ることはできず、情報を入手するにも制約がある。
そんな限られた状況の中から、
事件の裏に隠された真実に迫っていく。

本作は、六つの短編で構成されている。
舞台になっているのは、いずれも北海道内。
オーストラリア人がたくさん住みついた
倶知安町
ヒラフスキー場界隈で起こった殺人事件や、
故郷である空知の産炭地(夕張の隣にある架空の町)に
逃げ込んだ犯人の心の闇、
確実に静内と思われる町で起こった大物牧場主の殺人事件
などを描いている。

行ったことがある地が舞台になっていることもあり、
読んでいて情景が目に浮かぶ。
派手さや痛快さはないが、地に足のついた手慣れた書きぶりで、
きちんと世界に引き込んでくれる。

ただ、どの作品も、終わり方が唐突。
短編としてコンパクトにまとめた、というよりも、
本来300ページある作品を60ページで終わらせた感じである。
内容的には、事件の背景にポイントを絞ったかのよう。
その先が知りたいのに、という気持ちが残る。

もっと深くえぐるような長編を読みたくなった。

十分に面白い作品ではある。
ただ、私の度量の小ささゆえのことなのだが、
直木賞受賞作という冠を意識して読んでしまった。
その先入観がなければ、もっと面白く感じたかも。

■辻村深月「太陽の坐る場所」
        辻村深月/太陽の坐る場所
辻村深月(つじむら・みづき)の作品は、
かねて読みたいと思っていた。
特に、2009年に刊行された「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」は、
読書欲を刺激され、昨年末に
札幌市図書館に予約。
ところが、未だ順番がまわってこない。
そこで、すぐに借りられた本作を読んでみた。

舞台は、高校卒業から10年後のクラス会。
軸になるのは、卒業後、女優になった「キョウコ」という女性。
彼女は、これまで数度開かれたクラス会には一度も出席していない。
次のクラス会では、なんとかして出席してもらおうという話になる。
そんな彼女と、彼女を取り巻く状況について、
数人のクラスメートの視点から語られている。

クラスにおける女性同士の嫉妬や悪意などを絡めた
微妙な付き合いぶりや、
卒業後のクラスメートの見栄や執着心など、
良く言えば丹念に、悪く言えばしつこく描いている。
ただ、リアリティはあるし、拾わずに通り過ぎそうな心情を
よくカバーしており、非凡さは感じる。

文章表現にしても、面白い作品を書けそうな片鱗というか、
輝かしい才能を感じさせるところはある。
例えば、
「馴れ合い。才能のない者同士がつぶし合い、
時に才能がある者までをも潰してしまう、どうしようもない場所」とか、
「一度崩壊を許した場所には、二度と秩序は帰ってこない。
許し続け、流され続ける」など。

ただ、場面が錯綜してわかりにくい箇所が多い。
前置きもなく場面が突然変わっているようなところがあり、
想像で補うのに時間がかかる。
なんというか、筆運びが先走っているようで、
読み手にとっては、遅れて理解する、あるいは、
理解できないまま読んだ箇所が複数あった。

終盤、小さなトリックが秘められていたことが明かされる。
そこまでに感じた違和感の正体はこれだったのかと、
それなりの納得と意外性はある。
先走られたようなもどかしさのある作品ではあるが、
それに慣れれば、面白い作品ではないかと。

■吉田修一「横道世之介」
        吉田修一/横道世之介
昨年11月に札幌市図書館に予約。
今年のゴールデンウィークに、やっと順番が回ってきた。

時代は1980年代半ば。
主人公の横道世之介(よこみち・よのすけ)は18歳。
大学進学のため、故郷の長崎から東京へ出てくる。
そこからの1年間を綴った青春物語である。

物語は、東京に着いたばかりの世之介が、
屋外ステージで営業をしているアイドルを発見し、
興奮する場面から始まる。
彼は、大理石のような重たい置き時計をバッグに入れている。
そうした設定のせいで、さえないオタクキャラ学生の、
ぱっとしない物語かと思って読み進めた。

この作品は、普通の大学生の、普通の日常を描いていると
紹介されているメディアが多い。
ところが、入学後すぐにサンバのサークルに入ったり、
ホテルでバイトしたり、コンパに行ったり、
男女複数でドライブ・デートをしたりと、
普通の学生よりも、よっぽど大学生活を楽しんでいるキャラである。
また、高校時代は、濃密な交際をした女性がいたことも描かれている。
そんな感じで、キャラクターが、しばらくつかめなかった。

しかし、お調子者で、図々しいが、
優しさのある憎めない感じのキャラだと理解したら、
物語にぐっと入っていけた気がした。
描かれている場面は、
ハイティーンならではの甘酸っぱさやほろ苦さが中心。
なかでも、不思議キャラのお嬢さま学生と知り合い、
ゆっくりと二人の心がつながっていく過程は素晴らしい。

お嬢さま学生が、ほんとにいい味を出している。
愛おしくて仕方なくなるほどの真っ直ぐさである。
例えば、夏休みに、世之介は実家に里帰りする。
その時、お嬢さまは、世之介と付き合ってもいないのに、
里帰りに勝手に同行。
実家近くのホテルに泊まり、実家にも訪問する。
一方的で強引な行動だが、あまりの健気さに胸がキュンとなる。

また、ところどころ、登場人物の現在の生活を織りまぜている。
そして、「大学生の頃、世之介って奴いたよなあ」と、
しみじみ思い出す場面を作っている。
これが非常に良い。
世之介が人生に大きな影響を与えたわけではない。
でも、彼がいた、ありきたりな大学生活はとても楽しかった。

そう、このブログを読んでいる君だって、
あの日、あの時の誰かの笑顔や、
ちょっとした印象に残る言葉や小さな出来事を、
ふと思い出して、楽しかったなと思うことがあるはずだ。
それはとても貴重なことで、
そうした小さな思い出の積み重ねによって今があることを
感じさせてくれるような素敵な作品である。

世之介の現在、お嬢様の現在、世之介の母の思い。
そうした全てが絡み合い、最後は落涙必至、万感まちがいなし。
今、思い出しても、ほろっときそうになるほど。
買って、家に備えておきたいような作品である。
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テーマ:読書メモ - ジャンル:本・雑誌





いまだに出会えていない「横道世之介」。
明日は札幌へ行くので、ぶらり本屋の旅でもしようかと思います。
今日は早起きをして、二度寝をして、なんとも懐かしい感じの夢をみて、寝付けなくなって…これから三度寝に挑戦してみます。
【2010/06/04 05:11】 URL | yoshimi #-[ 編集]

yoshimiさん、コメントありがとう。
何かいい本は見つけたでしょうか。
ちなみに、yoshimiさんは、気づかぬうちに、
既に世之介のような人に出会っていると思いますよ。

不思議なもので、面白い作品を読んでいる時は、一日のリズムが良く、
ばっとしない作品を読んでいる時は、何か調子が悪い感じがします。

ところで、今時期の留萌の夕日は最高だろうね。
今年の夏は行くぜ、自転車で。
【2010/06/08 00:51】 URL | クグエSW #-[ 編集]















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