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4月23日に東京へ行った時の話だ。
帰りの機内で読書でもしようと、
羽田空港内の田辺書店にて文庫本を買った。

機内のみならず、航空機に乗るまでの待ち時間や、
千歳から札幌への電車内を含めると、
3時間近くも読書に費やせる絶好の機会だった。

購入した文庫は、大沢在昌氏の「毒猿」。
彼の新宿鮫シリーズの中で、面白いとの評価が高い作品である。
出発20分前に、搭乗口近くの椅子に着席。
わくわくした気持ちで本を開く。
その時だ。
何がなんだかわからなくなった。
本を開くと、タイトルが「屍蘭」(しかばね・らん)と
書かれていたからだ。

「屍蘭」も、大沢在昌氏の新宿鮫シリーズのひとつ。
数年前に読んだことがある。
ブックカバーをはずして表紙を確認する。
間違いなく、「毒猿」の表紙カバーである。
ところが中身は、やはり「屍蘭」である。
こんなことってあるのだろうか。

毒猿/屍蘭
作品によって、当然、本の厚さは異なる。
表紙カバーと中身が一致しなければ、ずれるだろう。
ところが、表紙カバーは「毒猿」、中身は「屍蘭」で、
ぴったりと収まっている。
しかし、私の心は収まりがつかない。

本屋に戻り、取り替えてもらおうかと思った。
ところが、本屋まで10分くらいは歩くだろう。
出発時刻まで、あと20分ほど。
これではちょっと無理がある。
あきらめるしかない。
しかし、腑に落ちない。納得できない。
どうせだから、屍蘭を読むことにするかと本を開く。
ところが、心がざわつき、全く集中できない。

10分くらい経った時だ。
出発が15分程度遅れるとのアナウンスが流れた。
ますます心が穏やかではなくなる。
もつと早くアナウンスしてくれれば、本を交換しに戻れた。

その10分後、さらに10分遅れるとのアナウンスが。
全くついてなかった。
札幌に戻り、翌日、本屋に連絡をとり、
本を交換してもらおうかとも考えた。
しかし、事情を説明して信用してもらえるか不安だったし、
送り返したり、なんやかんやの手間を考えると、
ひどく面倒な気持ちになった。

全てをあきらめることにした。
平常心を保て、と言い聞かせ、読書を始めた。
読んだことがあるなと思いつつ読み進める。
やはり大沢作品は引きつけてくれる。
結局、札幌に着くまでに130ページ読んだ。
しかし、その日から、栞はそのページに挟まったままだ。

そういうわけで、今回はブック・レヴュー。
今回は、ブック・オフにて105円で購入した3冊を紹介。
いずれも有名作。
それではどうぞ。

■川上弘美「センセイの鞄」
川上弘美/センセイの鞄
2001年、谷崎純一郎賞受賞作品。
70歳手前の独身男性と30代後半の独身女性。
二人は、高校の教師と生徒の関係。
自宅の近所の小さな居酒屋のカウンターで偶然出会う。
高校時代は全く親しくなかったが、
居酒屋での出会いを重ねるうちに、次第に仲が深まっていく。

二人は約束して会っているのではない。
それぞれが勝手に居酒屋に通い、たまたま会う。
何度も店で会っているのに、二人は常に敬語で語り合う。
そうした落ち着きのある距離感が心地よい。
静かで美しい時間が淡々と過ぎていく。
そんな生真面目で柔らかくほのぼのした雰囲気。
この作品が絶賛されたことも頷ける。

ところが、私にとっては、リズム感がしっくりこなかった。
展開がもどかしく、退屈な場面も随所にあり、
なかなか読み進められず、引き込まれる感じは薄かった。
良質な文学だなとは思う。
旬の食べ物や植物など、季節描写も素晴らしい。
しかし、あまりに綺麗すぎて、グサリと胸を刺すものに欠けていた。
とんでもなく歌の上手い人が、音符どおりに正確に歌っても、
なんだかつまらないものになる感覚と似ている。

ただ、この主人公の女性に思いを寄せる男を登場させたことは、
書き手として巧みであり、非常に効果的だった。
仕事ができて、女性の対応もスマートな男である。
彼女は、この男に少しずつ惹かれていく。
しかし、彼女が求めているものは、
刺激を受け、自分を成長させてくれる存在ではなく、
暖かく、全てを許してくれるような存在であることに気づく。
それをきっかけに、老人の元教師との仲が逆に深まっていく。
そうした心の揺れ動きの描写は、実に見事だった。

女性ウケする作品かなと思う。
好きな人なら、何度か読み返したくなる作品かもしれない。
素晴らしい作品であるという評価に全く異論はないが、
私は一読でいいかなと。

■筒井康隆「家族八景」
筒井康隆/家族八景
主人公は、19歳の女性。
彼女は、目の前にいる人の心の声を読み取ってしまうという
不思議な能力を持っている。
彼女は職業は家政婦。
この作品は、彼女がおつとめした八つの家族について描いている。

彼女が読み取ってしまう心の声は、その人の隠し事、悪意、嘘など。
それを軸として、家族内の確執、嫉妬、疑心など、
どろどろとした関係が浮き彫りになる。
心の醜さのオンパレードで、
「よくもまあ、こんなに問題のある家庭にばかり呼ばれるもんだ」と、
呆れてしまうところはある。

ところが、隠している本音の描写が素晴らしい。
容赦が無く、生々しいのだが、なんとなくコミカルである。
また、人の心を読むという非現実的な能力をベースにしていながら、
描いている家族の問題は、実にリアリティがある。
安易にまとめる方向へ行かず、きちんとぞっとさせてくれる。
ただ、不倫が題材になっている作品が多く、
汚れたエロチシズムでお腹がいっぱいになるところもあるので注意。

1972年の作品だというのが凄い。
40年近く経過した今読んでも、全く色褪せていない。
20世紀に生まれた古典といってもいいだろう。

■リリー・フランキー
  「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」

リリー・フランキー/東京タワー
大ベストセラーとなった2005年作品。
本が売れただけではなく、映画化され、テレビドラマ化もされた。
私は、これらのいずれも見たことがなかった。

ある日、待ち合わせ時間まで15分ほど空いていたため、
街中のブック・オフに入店。
文庫本の105円コーナーへ行き、
読みたいと思っていた、前記の「センセイの鞄」と「家族八景」を手に取る。
ついでに、なんとなく単行本の105円コーナーへ。
いきなり目に入ったのが、リリー氏の「東京タワー」だった。

それまで読んでみたいと思ったことはなかったが、
各方面で説賛された、2000年代を代表する一冊であり、
それが105円で己のものになるならば、
今が買い時、そして読み時なのだと思うに至り、購入。

内容は、リリー氏の自伝である。
最も古い記憶にある幼児の頃から、40歳くらいまでの半生を描いている。
前半の半分近くは、高校生までの話。
父親がほとんど家に帰らず、やかで両親は別居。
小倉から筑豊に移り、母の実家で暮らす。
複雑な家庭環境にあり、家は貧乏だったようだ。

でありながら、別府の美術系の高校に通うため一人暮らしをしたり、
ゲームセンターに入り浸ったり、バイクを所有していたりと、
彼とほぼ同世代の私には、かなり裕福に思えた。
そして、東京の美術大学に進学である。

さらに、リリー氏は、金がないと母に無心する。
この家庭のどこにそんなお金があったのかが、ずっと気になった。
結局、最後までわからなかった。

60歳になった母が、東京に住むリリー氏と二人暮らしを
始めるところからは、じんわりしみる箇所が一気に増えた。
母は、よく出歩き、友達を作るし、
リリー氏の友達や仕事関係者とも、家族のように付き合い、
リリー氏がいない時でも、友達などが遊びに来る。
非常にさばさばとして、バイタリティとエネルギーのある
人だったのだなと思う。

泣ける作品との評判ながら、コミカルでほのぼのとしており、
いつ泣けるのかと思いつつ読み進めた。
ところが、心配はいらなかった。
後半、リリー氏の母が亡くなるに至る過程や、
亡くなった後に知ったあれこれで、きっちりと泣ける。
母の息子に対する愛情、息子の母に対する愛情、
その両方に心を揺さぶられた。

実は、私が最も泣けたのは、
母が、「私が死んだら開けなさい」と言っていた箱の中に入っていた、
今はもう別れたリリーの彼女に対する手紙である。
非常に切ない気持ちになりました。

読みやすく、わかりやすく、感情移入もでき、
素直にいい作品だと思った。
ただ、ところどころ、文学的表現をしている箇所がある。
そんことをしなくても、十分に文才を感じる書きぶりだっただけに、
なんとなくリズムが狂い、私には余計に思えた、

また、常にあまり仕事がなかったように書かれているが、
いつのまにか仕事が増え、終盤は結構いいところに住んでいた。
その経過がほとんど書かれていないのが気になった。
それを書いていないから、本筋からはずれず、
一気に引きずり込まれたところもあるが。

この作品は、4月23日に東京へ行った翌日から読み始めた。
4月23日には、生まれて初めて東京タワーに行った。
読む前は、この作品を読んでから、東京タワーに行けたらと思ったが、
読み終えたら、東京タワーに行き、どんなところか知ってから読んで
逆に良かったと思えた。

ところで、今後、東京タワーに行くことがあるとする。
そこに偶然、リリー・フランキー氏がいたら、
驚きや感激よりも、変な感じがするだろう。
なんとなく、東京タワーにいてほしくない気がする。
同様に、森進一氏が、プライベートで、えりも岬に佇んでいたら、
「なにやってんだろうね」と、ちょっと笑っちゃうような気がする。
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つづく…の前にコメント書き込みすみません。
本、驚愕ですね。
おそらく、本屋さんでは、在庫数と売り上げ数をチェックしているとおもうのですが…。
本屋さんの間違いではないのかも知れませんね。
きっと、カバーもかかっている状態で納品されるでしょうから、もしかしたら、そのお店の本のカバーと中身は違うものがたくさんあるのかも知れないですね。

筒井康隆の本は何冊か読みました。
性描写が具体的すぎて、ちょっと嫌悪感があったりするのですが、内容は面白いと思います。
【2010/05/12 17:08】 URL | yoshimi #-[ 編集]

yoshimiさん、コメントありがとう。
さすがに本屋でも、カバーと中身が一致するかはチェックしてないでしょう。
文庫本のカバーをつける作業は、
人間の手によるのか、機械によるのか、製造工程はわかりませんが、
同じミスが、多数発生している可能性大ですね。
しかも、面倒だからと、本屋に報告しない人の方が多いような気がします。

yoshimiさんは筒井作品を既に読んでましたか。
性に対する心理を、よくもまあダイレクトに書いているなと、
ちょっとひくところはあるのですが、なぜか違和感はなかったですね。

ところで、吉田修一「横道世之介」は、非常に良い作品です。
yoshimiウケするような気がします。
近いうちにレヴューします。
読むべき本がなくなったら、是非読んでみてください。
留萌の図書館にもあるでしょう。
【2010/05/14 00:45】 URL | クグエSW #-[ 編集]















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