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どしゃ降りになるときは、いきなりそうなるのではなく、
一滴、少しして、また一滴、間隔が狭まって、また一滴。
良いことも、そんなふうに訪れるのだろう。
確かなる助走が重要だ。
遊びのあるアクセルと、遊びのあるブレーキが必要だ。
ならば、どうすればいいんだろう。

今回は本の紹介。
よろしくロック・ミー。

■矢口敦子「あれから」

矢口敦子/あれから 
主人公は、20代後半の看護師の女性。
10年前、彼女の父は、電車内で痴漢。
電車を降りた後、それを咎めた男性を、ホームから突き落とし、
死亡させた疑いをもたれる。

警察が任意同行を求め、自宅を訪問する直前、
父は倒れ、そのまま入院。
病状回復後に事情聴取を受けることになるが、病室で自殺。
真実はわからないまま、父は殺人犯とみなされた。

主人公の女性が働く病院に、ある女が入院してきた。
その女は、10年前にホームで転落死した男性の妹だった。
彼女と話をしていくうちに、10年前の事件の真相が明らかになっていく。

題材は揃っているのに、深みに欠ける作品だった。
そこでもう一押し、というところで、あっさり次の展開に移った印象があり、
味わいに乏しかったというか、中途半端というか。

例えば、犯人扱いされた父が自殺したことにより、
残された家族が味わった辛さ、悲惨さは、もっと掘り下げられたと思うし、
特に、主人公の妹のキャラが突出していたにもかかわらず、
中盤以降、全く生かされていないのが残念。
悪事をはたらいた大学生にしても、
悪事をはたらくに至る背景が乏しく、説得力がなかった。

ただ、ストーリーはわかりやすいし、読みやすい。
ぐいと引き込まれる感じではないが、どんどん読めてしまう。
映像もイメージしやすい。
でも、もっとなんとかできたはず。

■佐藤正午「Y」
佐藤正午/Y 
1980年、その男は25歳だった。
20歳の女性と二人で電車に乗っていた。
電車は下北沢駅に到着。ドアが開き、二人は降車。
その時、電車内から「傘を忘れていますよ」の声。
女性は電車内に、傘を取りに戻る。
その間に、ドアは閉まり、電車は走り出した。

女性は次の駅で降りて、下北沢駅に戻ってくるだろうと思い、
男はホームで彼女を待った。
しかし、彼女は戻って来なかった。
なぜなら、下北沢駅を出た電車は、その後、脱線事故を起こし、
次の駅にはたどり着けなかったからだ。

男は、その後何年も、下北沢駅で彼女を降ろせなかったことを後悔した。
あの時に戻ってやり直したい、と思い続けた。
その思いの強さが、タイムスリップを引き起こした。
事故から18年経った1998年、男は、1980年に戻ることに成功する。
そして、彼女を下北沢駅で降車させることができた。
しかし、そこからが運命のいたずら。
男が描いたやり直しの人生とは全く違うものになった。

男は、1980年から1998年を二度生きたことになる。
タイトルの「Y」は、1980年の電車事故を分岐点にして、
人生は右と左に分かれていったということからくる。

面白い作品だと思う。
二度目の人生を過ごしているタイムスリップ男が、
友人に、タイムスリップの話を聞かせる形で物語は進む。
友人は、自分も2度目の人生であることに気づいていく。
こうした方式によって、興味と緊張感が増した。

二度目の人生が切ない。
もう一度やり直しても、思うようにはならないものねと、
嘆き、悲しみ、憂うしかないような内容。
儚い恋物語といいますか。

展開が巧みで、ぐいぐい引き込む書きぶりで、
中だるみなく、最後まで飽きずに読ませる。
ただ、序盤、もやっとし過ぎていて、なかなか物語に入っていけなかった。
登場人物が、現在と18年前とで交錯し、わかりにくい場面も多い。

また、タイムスリップ男にとって、
一度目の人生は、
結果的に結構幸せだったと思うし、
電車事故の女性を、どれだけ好きだったかという背景が見えないため、
そんなに、そこまで後悔して、タイムスリップしたがるかねえ?と思え、
いまひとつ感情移入できなかった。

それでも、なかなかミステリアスかつ緊迫感のある内容であり、
「あの時から人生をやり直せたら」という点での共感性もあるだろう。
ただ、やり直しても、大してうまくいくもんじゃないだろうね、現実は。

■西川美和「ゆれる」
西川美和/ゆれる 
真面目で優しい兄と、自由で奔放な弟。
兄は田舎町で家業のガソリンスタンドを継ぎ、
弟は東京でカメラマンをやっている。

母の法事のため、弟は帰郷。
その際、兄のガソリンスタンドに、
幼なじみの女性が勤務していることを知る。
兄は、彼女に恋心を寄せていると思われる。
それを感じつつも弟は、彼女と密会する。

翌日、兄、弟、彼女の3人で、近くの渓谷へ出かける。
そこで事件(事故)が起こった。
その事件(事故)をきっかけとして表面化した兄弟間の複雑な心理を、
スリリングかつ丁寧に描いている。

実に引き込まれた作品だった。
あまりに面白くて、やるべきこともやらずに読書に没頭させられ、
平日の夜2日間で読み終えてしまった。

何が真実か?兄の言動の真意は?弟の変貌の理由は?
さまざまな視点から、事件(事故)を解明していく構成が巧い。
文章が整然としていて、淡々と読み進むのだが、
しっかりと心をざわつかせてくれる。

どういう展開をするのかと、常に興味を絶やさず、
結末は結局、藪の中だが、それでもいいかと思わせる。
この作品の映画も高い評価を得た。
映画も近いうちに見てみたい。

     ◇      ◆      ◇

「ゆれる」ものは様々あるが、草木もそのひとつ。
草木が鮮やかな緑になるのはまだ先で、
まずは、あと3週間程度で桜が開花して草木シーズンが始まる。

桜は美しいし、今年も春が来たのだという喜びあり、
また、散る系の花なので、儚さの象徴のようにも語られる。
近年それ以上に感じるのは、
去年、桜が咲いてから一年が経ったと思うことだ。
厳密に言うと、一年が経ったと思い知らされるのだ。
一年前と比べて前進したか?
どうにもならないまま過ぎてしまったのではないか?
そのうちに今年も桜が咲いちゃいました、
みたいな虚しさをおぼえるのだ。
でも、そんな虚しささえも、桜の醍醐味かもしれない。
カモン!桜、俺は待ってるぜ。

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