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生まれてから現在に至るまで北海道に住んでいるが、
広い道内、まだ行ったことがない地域がある。

まずは離島。
天売島、焼尻島は訪問したことがある。
素晴らしいところだった。
これまでの人生の中で、最も感動した場所かもしれない。
特に、焼尻島の高い場所から見た天売島の景色は圧巻だった。
海の中に島がぽっかり浮いているようで、非現実的な空間に酔った。
あの時のフォトはどこへ行ったやら。


利尻島、礼文島、奥尻島には行けずにいる。
今後10年以内には、なんとしても行きたい。

離島を除いて行ったことがないのは、知床半島。
知床横断道路を走ろうと、何年か前のゴールデンウィークに行ったが、
天候不良により開通ならず。
半島のつけ根部分である斜里町から標津町へと抜けて、
別海町に宿泊して帰ってきた。

もう一箇所、足を踏み入れていない地域がある。
帯広市から南側、襟裳岬へと続く地域である。
市町村名でいえば、中札内村更別村大樹町広尾町である。
この辺りを舞台にした小説を読んだ。
まずは、その作品から。
今回は、本の紹介。

■佐々木譲「暴雪圏」
佐々木譲/暴雪圏 
舞台は広尾町志茂別(しもべつ)。
志茂別は、架空の地名だろう。
「帯広までは車で4、50分」とか、
「国道336号と国道236号が合流」などの表記があるので、
おそらく広尾の本町より北側にある集落だという設定だろう。

3月下旬のある日、真冬並みの暴風雪となって、国道も道道も通行止めに。
帯広で起こった強盗殺人事件の犯人。
テレクラで知り合った男に付きまとわれる主婦。
職場の金を持ち出した、さえない中年男。
そんな、それぞれに切羽詰まった人々が、国道の通行止めによって、
志茂別のあるペンションに避難するように駆け込むはめに。
そこでの恐怖の一夜が描かれている。

面白いです。
展開に無駄がなく、常にスリリングで、一気に読ませてくれる。
ペンションに集まった人達の、それぞれの裏事情が交差し、
サスペンスフルに展開していく。
手慣れた巧者だからこその作品だと思う。

ただ、次の行動に移るに当たっての心理状況がシンプルすぎるかなと。
人間の奥行みたいな部分にあまり踏み込まず、さくさくと物語は進む。
だから読みやすいのだが、小説ではなく、
事件報告を読んでいるような感覚にもなった。

衝撃的だったのがラスト。
途中でいきなり終わったかのようで驚いてしまった。
そこで終わっちゃうの?感が極めて高く、
そこから先が知りたいのに、という気持ちになった。

メインの事件が解決したと同時に物語は終了。
一般的にはそれでいいだろう。
ただ、この作品は、それぞれに重たい事情を抱えた人々が登場する。
そうした背景に引き寄せられる内容だっただけに、
一方的に終わってしまったような印象がある。

それでも、面白く読めます。

■折原一「逃亡者」
         折原一/逃亡者 
知人の夫を殺害した主婦。
逮捕され、連日、取り調べを受ける。
やかで、体調を崩して入院することに。
当然、病室にも病院にも、警察の24時間の監視がつく。
しかし、油断した婦警と看護婦の隙をついて脱走に成功。
そこから、15年間の時効までの長い逃亡劇が始まった。

非常に面白かった。
テンポの良く展開しつつ、逃亡生活の緊迫感が伝わってくる。
513頁に及ぶ長編だが、常に動きがあるため、
長さを感じさせず、終盤は読み終えるのがもったいなく思えたほど。
逃亡する主婦は、犯人にさせられたような背景があったり、
被害者の周辺の人物は、実は、事件後よろしくやっているなど、
同情すべき点も多く、一緒に逃げているような気持ちで
読み進めたような気がする。

終盤は、小さな違和感が見え隠れしてくる。
オチにつながる伏線だろうと期待が高まる。
ところが、ちょっとひねり過ぎたというか、突飛というか。
前半からずっと、適度にリアリティがあり、ドキドキ感を楽しめただけに、
ラストの非現実ぶりは、ここが着地点だったのか…、という感じ。

ストーリーは文句なしに面白い。
淡々と、それでいてメリハリをつけ、淀みなく流れる文章も良い。
同じ題材で、桐野夏生、あるいは桜庭一樹が書いても面白そう。

青森が舞台になる場面が多い。
本州最北の地らしい寂しさ、侘びしさが、
主人公の気持ちと重なり、特に心に残った。
主人公と自分とのシンクロ度が高く、
竜飛崎で「津軽海峡冬景色」を口ずさんだシーンでは、
私まで、ほろっときたほど。

津軽半島と下北半島を周る、ひとりジャーニーをしたくなった。
そこで、青森の地図を見てみた。
下北半島の形に衝撃を受けた。
まさしく斧である。
ぼやっとしたイメージはあったのだが、
改めてじっくり見てみると、壮絶であり、神秘的でもある。
そこに「恐山」と名付けられた山があるのも、妙に納得できる。

■小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」
         小川洋子/猫を抱いて象と泳ぐ 
「博士が愛した数式」で、数学という宇宙を見せてくれた小川氏が、
本作では、チェスという宇宙を描いている。
小出しに、わかりやすく、チェスの基本知識を伝え、
ゆっくりとイメージさせてくれるような書きぶりになっているので、
チェスの知識は皆無に等しい私でも、問題なく読むことができた。

主人公は、どこかの国の11歳の少年。
彼はコンプレックスを抱え、無口で内向的。
ある日、バス会社に勤める太った中年と出会い、チェスを学ぶ。
それ以後は、ひたすらチェスにはまっていく。
やがて、由緒あるチェス倶楽部において、チェス人形が作られた。
彼の仕事は、その人形の中に入って、チェスをすることになった。

まあ、なんというか、読むのに体力が必要な作品だった。
表面的には、静かで、さらっとしている文章なのだが、
抽象的だったり、実は濃密だったで、
ちょっと立ち止まって、頭を整理しなければならない箇所が多かった。
想像力が試される作品といってもいい。

主人公の少年には、「死」や「あきらめ」みたいなものが、
常にそばにある感じで、読んでいて息苦しくなる箇所も多い。
好きなチェスは思う存分やりつつも、
チェス以外では大海へ出られない自閉ぶりが凄まじい。

ところが、そんな彼を、そしてチェスを、美しいものとして
描けているからすごい。
これぞ、現代の良質な文学なんだなあと、しみじみ思う。
例えば、チェスのことを、
「白と黒、双方から築かれる彫刻」、
「平たい木の板に縦横線を引いただけなのに、
 私たちがどんな乗り物を使ってもたどり着けない宇宙を隠している」など、
はっとするような秀逸な表現が随所にある。

表現の的確さ、文章のリズム感、そして、句読点の位置など、
ほんとに見事だなと思う。
声に出して読んでみると、より一層、文章の素晴らしさがわかる。
その反面、すっと入りこんで、一気に引きずり込むようなものではない。
文章を噛みしめるように、ゆっくり読むべき作品。
哀しさと温かさが同居した美しい物語である。
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