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明日がライブである。
急に決まったライブであることや、
最近は、止まらないバスに乗ったままのような毎日だったことで、
いささかの不安はあるが、
このライブが、止まらなかったバスの終着駅だ。
なんとか望む場所にたどり着けた思いを、声と楽器に託したい。

なお、ブログに非公開メールで予約をくださった方、
ありがとうございました。
チケットはしっかり準備しておきます。
よろしくお願いします。

      ◇        ◆        ◇

さて、ライブ前日という押し迫った状況にありながら、
本日もブログを更新。
今回はブックレヴュー。

ブックレヴューで取り上げる作品は、
私の中で10点満点の5点以上のものだけにしている。
したがって、読んだけれども紹介されない作品もある。
概ね6冊に1冊が紹介されずに終わっているような気がしている。

ブックレヴューの際は、基本的に3冊同時に取り上げている。
これは、読み終えた順に3冊をピックアップしているわけではない。
3冊の中には、必ず7点以上のレベルの作品を
1冊は入れるように意識している。
よって、例えば、5点レベルの作品が続いた場合は、
7点以上のレベルの作品に出会うまで待機させることもある。

で、今回の3冊だが、いずれも8点以上のレベル。
私のブックレヴューとしては、今年最高のラインナップである。
1月に発表予定の、私の選ぶ「2009・ブック・オブ・ザ・イア」に
3冊とも選ばれる可能性もある。
それではどうそ。

■柳広司「ダブル・ジョーカー」
   柳広司/ダブル・ジョーカー 
昭和10年代、日本の陸軍内に設立された架空のスパイ組織の話。

5つの短編で構成されている。
このスパイ組織は、「死ぬな、殺すな」を基本とする。
命の犠牲を当然とし、美徳としていた当時の日本の軍隊の志向を
真っ向から否定。
いわば反体制。
つまり、現実にはあり得なかったスパイ像ではある。
しかし、こうした設定の方が、現代的な感性にはマッチしており、
それが面白くさせたともいえる。

スパイしている者が、実はスパイされていたという構成が基本。
スパイ行為の緊張感や、スパイとなるための「からくり」の妙など、
実にスタイリッシュに表現している。
そう、文体が非常にかっこいいのだ。
ソリッドでタイトでクールな文体と展開は、切れ味が鋭く、
いわばロック的なリズムに思える。
内容の面白さもあるが、私にとっては
文体の良さが高評価の大きなポイントになった。

キャラクター設定も巧みである。
物語の核となる人物イメージを、
短時間でしっかりと読者に植え付けてくれる。
また、昭和10年代という設定であるが、
くどくどと当時の状況を説明することはなく、
物語の核にさりげなく絡ませていくように描いており、
時代の壁を感じさせない。

時代状況として、特に印象に残ったのは、地方の貧困ぶり。
その一例として、地方では、生活費に困窮している親が、
たかがしれた額の遺族年金をもらうために、
三男、四男を積極的に軍隊へ送り込もうとする様を描かれている。

作品によっては、スパイ関係が二重、三重になっており、
つまり、裏の裏をかく、みたいな展開で、ややこしいものもある。
また、どの人に対して、何のためにスパイ行為をしているのかが判然とせず、
何が善で何が悪かも混沌としてくる。
ページを戻して読み直すが、それでもわからない。
わからないのだが、わからないまま読み切れて、しかも面白かったと思える。
そんな不思議な魅力がある。

ひとつめに掲載している、表題作の「ダブル・ジョーカー」は
ほんとに素晴らしい。
今年読んだ短編の中では、道尾秀介「鬼の跫音」に掲載されていた
「けもの」と並んで出色の作品である。

■佐藤正午「身の上話」
佐藤正午/身の上話 
地方都市で本屋の店員をしている23歳の女性。
成り行き任せで、ふらふらと生きている。
彼氏はいる。地元の企業に勤めている。
不倫相手もいる。月に一度、書店にやってくる出版関係の会社の男。
何度も顔を合わせるうちに、なんとなく付き合うようになった。
こうしたことを彼女は深く考えず、ぼんやりと身勝手に過ごしている。

ある日、彼女は、歯の治療に行くため、
仕事の合間に、短時間の休暇を取る。
その際、他の店員達から、
外出のついでに宝くじを買ってきてほしいと頼まれる。
彼女は、歯医者に行くため職場を出る。
そこで魔が差した。

東京に戻るため、空港行きのバスに乗ろうとする不倫相手を目撃。
彼女も、なんとなく空港まで一緒に乗って行きたくなる。
とりあえず、頼まれた宝くじは買った。
書店の制服のまま、バスに乗った。
そこから、彼女の人生は、ジェットコースターのごとく流転する。

非常に面白かった。
読み手を引き込み、退屈させない展開。
理念や理屈など面倒くさいことを抜きにした徹底的な疾走、というか迷走。
先が知りたくて、ハイペースで読まされてしまった。
帰宅してやることがあるのに、読書を優先させられた。

登場人物は皆、最初のうちは、普通の人のように思えるのだが、
ページが進むごとに、誰もが怪しく、嫌らしく感じてくる。
欲と防衛心が絡むなかで、必ず誰かがどこかで崩れ落ちていくのだろうと、
変な期待感が高まってくる。

あの出来事の真相は?お金はどうなったの?など、
投げっぱなしで気になったまま終わった部分があり、
また、淀みなく後半まで強いパワーで読み手を引っ張ったわりに、
エンディングは、パワーの根幹がちょっと横にそれた感もある。
心に残る言葉や、文体の魅力も特段ない。

しかし、これだけ読ませる作品はなかなかない。
緊張感を絶やさず、興味をそらさず、そして、とにかく読みやすい。
普通の言葉で普通に書いているようで、
普通の人には書けない綿密さを感じさせる。
そんな熟練した書きぶりを楽しめる作品でもある。

■多島斗志之「黒百合」

多島斗志之/黒百合 
時代は昭和27年。
夏休みを六甲山にある別荘で過ごす男子中学生二人。
ある日、近くの別荘に来ていた一人の女子中学生と出会う。
三人は、すぐにうち解け、ハイキング、水泳、喫茶店訪問などを共にし、
思春期ならではの甘酸っぱくも切ない時間を過ごす。
そんな、かけがえなのないひと夏の思い出を、繊細に端正に描いている。

一方、少年達の父母等を取り巻く状況が、昭和10年から語られる。
ベルリンで出会った女性、電車の運転士に恋した女学生、
電車会社の会長、「六甲の女王」と呼ばれる女性。
そうした脇役のキャラ設定も巧みで、
第二次世界大戦前の時代状況を絡めながら、
ストーリーを豊かなものにしている。

時を超えて二方向語られるストーリー、これが最後につながる。
「そっちだったのか!」と、完全に作者の術中に
はまっていたことに気づく。
ページを遡って、確認してしまうこと間違いなし。

最後に起こる、ふとした何気ない出来事ひとつで、
散りばめられた点が、一気に線となり、面となる。
それまで見えてなかったものまで見えてくるほど鮮やかで劇的。
改めて読み返し確認してみると、
思いがけないところに伏線があり、
読者を翻弄し、見事なまでに別方向へ誘導されていたことに気づくのだが、
心地よく騙されたように気になる。
それは、劇的なオチであるにもかかわらず、
文章は至ってクールで、淡々としていることが要因である。
品のある余韻を残し、嫌味なく、すっきりと腑に落としてくれるのだ。

読み進むうちに、怪しさや不穏な雰囲気を次第に感じてくる。
そうした読み手の思いに応えるかのように、真相を小出しにしていく。
また、伏線なのかどうか微妙な書きぶりにさせておいて、
読み手がそれを忘れそうな頃合いで、伏線だったことを見せるなど、
タイミングや知りたい真相の量の加減が絶妙。
読んでいて、それに気づくのではない。
読んでいる時は、惹きつけられて、それに気づかない。
読み終わって振り返ると、綿密に計算されていたことに気づくのだ。

例えば、昭和27年当時に大ヒットしたラジオドラマ「君の名は」。
少女の叔母がこのドラマを好きだというシーンがある。
単に、時代状況を表すためのツールだと思っていた。
しかし違った。
ここにも、真相と結びつく要素が隠れていた。

オチと、オチにつながる数々の伏線。
それだけでも十分に素晴らしいのだが、
この作品の質を高め、愛おしいものにしたのは、
三人の少年少女の夏休みの描写の美しさである。
思春期の一途な心と揺れる心を、瑞々しく丁寧に描いている。

昭和27年当時のヒット曲「テネシーワルツ」。
物語の中盤、この曲を、少年少女が何気に口笛を吹くシーンがある。
これも単に、時代状況を表すためのツールだと思っていた。
ところが後半のある場面で、口笛を用いた素敵な演出をする。
作品の本筋とは関係の薄い部分ではあるが、
私が一番印象に残り、最も目が潤んだシーンである。

面白かった。そして素晴らしかった。
何のためらいもなく、幅広い層にオススメできる作品。
読み終えた後に感じる伏線の緻密さ、
そして、さわやかな感傷とでもいおうか、
切ない痛みに、なんとなく癒されるような傑作である。

      ◇        ◆        ◇

「ダブル・ジョーカー」は、男性向きな作品かと思うが、
「身の上話」と「黒百合」は、男女・世代を問わず楽しめる作品である。
特に「黒百合」は、図書館であまり貸し出されていないと思われるので、
結構狙い目である。
「身の上話」はバイしたので、読みたい方はご連絡を。

さて、ライブである。
明日は、朝から気持ちが落ち着かない一日になりそうだ。
観客が10人に満たない状況でのライブになるのではないかと、
結構本気で不安である。
来られる状況にありそうな方は、ぜひともご検討を。

今年はライブが2回しかできなかったが、
公言したCD製作も実現できそうであり、
それにも増して、ザ・ハート・オブ・ストーンの幹の部分が太くなった。
そんな充実した1年だった。
ザ・ハート・オブ・ストーンにとって、明日は大晦日みたいなものだ。
我々のちょっと早い年越しを見に来てください。

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テーマ:ブックレビュー - ジャンル:本・雑誌





昨日はお疲れ様でした。
ちょっと遅れてしまいましたがなんとか間に合いました。ライブよかったですよ。

ちなみに私は、冷めきった関係の夫の関係に疲れ果てたときに現れた年下の彼が実は借金癖が酷く、DVだった経験は…ありません(笑)

【2009/12/17 07:40】 URL | 通りすがり改め常連 #-[ 編集]

通りすがり改め常連さん、昨日はありがとうござまいした。
そして、コメントも。

ライブに来るのは、結構な勇気が必要だったかと思います。
それを乗り越えて来てくださったことに、厚く熱く感謝です。
そして、感激しました。

この次の記事「止まらないバスの終着駅」にも、
常連さんのコメントにまつわることを書いてます。
それ以外にも、ちょっと触れています。
すぐにわかると思いますが。
今後ともよろしくお願いします。
【2009/12/18 01:18】 URL | クグエSW #-[ 編集]















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