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私が初めてデジカメを買ったのは2006年10月。
その頃は留萌市に住んでいた。
なぜ買ったのか、その理由は覚えていない。
写真をよく撮るわけでもなく、何かの必要に迫られたわけでもない。

覚えているのは、デジカメを買った後、
「時代は完全にデジカメだから」とか、
「俺は、クグエ・キシンになる」など、
適当かつ不可解なことを喋っていたことだ。

デジカメを手に入れた私は、
とりあえず留萌市内のなんでもない景色を撮りまくった。
それをパソコンにインストールして見てみると、
肉眼で見るのとは違った感じがして、面白いものだと思った。

程なくして、留萌市内のみならず、留萌管内の町村の景色も
撮影するようになった。
その翌年には、転勤して留萌を離れることもあろうかと、
思い出をフレームに収めるかのように、たくさんの写真を撮った。

残念に思うのは、デジカメ購入が10月、転勤したのが翌年6月。
つまり、撮った写真は、10月から5月までの景色のみであり、
6月から9月という夏の留萌を撮影していないことである。
それと、非常に美味しいものが多い地域であったのに、
食べ物をほとんど撮影していなかったことである。
写真は、景色や人物を撮るものだという思い込みが、
貴重な被写体を見えなくしていた。
その頃にブログをやっていたら、とも思ったが、
その頃は、札幌に転勤してからブログを始めるなど、
全く想像ができなかった。

そんな、あれこれの事情により、
千枚以上に及ぶ留萌管内の写真は、
パソコンの中にインされ、
たまに見ては懐かしむものの、

ブログで公開する機会は、ほとんどなかった。
ところがブログで登場させられる機会がやってきた。
今回紹介する朝倉かすみ氏の小説、「ともしびマーケット」の中に、
「232号線」というタイトルの短編があったからだ。

■朝倉かすみ「ともしびマーケット」
朝倉かすみ/ともしびマーケット 
「田村はまだか」で吉川英治文学新人賞を受賞しブレイクした
札幌在住の作家、朝倉かすみの2009年7月リリース作品。

舞台は、「ともしびマーケット鳥居前支店」。
札幌市中央区の円山界隈にある架空のスーパーである。
作品は、9つの短編で構成されており、いずれも、
ともしびマーケット鳥居前支店に集う様々な人々の日常を描いている。

作品によって、お客さんの一人が主役であったり、
精肉部門の従業員が主役だったりだが、ある作品の主人公は、
別の作品に脇役で登場したりと、連作的な短編集になっている。

誰にでもありそうな人生の断片を、
ところどころ毒気を漂わせつつも、ほのぼのとまとめており、
結果として、優しく温かい作品と捉える読者は多いだろう。
特に女性ウケする作品のように思えた。

ただ、私としては、文体が独特で、しばらくは馴染むことができなかった。
センテンスが短いのはいいとしても、
求めてはいない情報が、変に小気味よく、
しかし、私のリズム感とは違った感じで繰り出されてくるので、
ストーリーに入っていく障害になった気がした。
例えば、こんな感じ。
“敷波智子は専業主婦です。29歳です。
 5か月前の6月に敷波信吾と結婚しました。新婚です。
 結婚を機にビル管理会社を退職しました。旧姓は市川です”

また、少し心配になったのが、
北海道の人にしかわからない地名、いや、
札幌の人でも馴染みのない地名が多く出てくること。
冒頭で触れた「232号線」も然り。

0610小平232号線 
国道232号線は、稚内市を起点、留萌市が終点である。
特に、初山別村から留萌市までの区間は、
すぐ近くに日本海を見ながらの道路がほとんどながら、
起伏も多く、変化に富んだ景色を楽しめる国道である。

0611苫前風車  
小説の「232号線」は、
高校を卒業し、稚内から家出同然に札幌へ出てきたものの、
ぐーたら生活を送っている女性の話。
稚内から札幌への長距離バスの景色について、
「遠別に来ても、稚内信金の看板がある」とか、
「羽幌の道の駅でトイレに寄った」とか、
「苫前の風車の数に圧倒された」とか、
国道232号線を知らない人にとっては、ディープなことを書いている。
しかし、国道232号線を愛する私にとっては、
道内でもマイナーなこの国道を取り上げたことを評価したい。

↓2006年11月の遠別市街。奇跡的に稚内信金の看板が写っている。
0611遠別市街 

素晴らしい描写もあった。

「平河」という作品おける、妻の一方的な雰囲気もそのひとつ。
息子を中学のサッカー部ではなく、
クラブチームのセレクションを受けさせようとする。
夫に相談するような問いかけをするが、実態は相談ではなく、
もうセレクションを受けることが決まっている。
そうした妻の一方的な勝手さを、上手く表現している。

最も、良かったのは、「冬至」という作品。
44歳の独身女性。スーパーの精肉部門で働いている。

彼女は毎晩、日本酒を冷やでやる。
酒の銘柄は「国稀(くにまれ)」で、
「オレンジラベル」と呼ばれる
二級酒を好んで飲む、という設定。
これは、国稀を知る人にはたまらないだろう。
「国稀ならオレンジラベル」というのが、
留萌、増毛方面での通説である。

さらに、ラベルの色について、
「みかん色も、青も、赤も、みんな折り紙の色をしている」と、
なるほどと思わせる素敵な表現に感心した。

この独身女性に、ある夜、中学生の息子がいる妹から電話がくる。
縁談の話だった。
「せっかくだけど」と断りムードを漂わせると、
妹は、「会ってみれば」と勢い込んで話した。

姉は、その気はないという態度を示したものの、

電話を切った後、縁談もわるくないかなと考え始める。
口元が無意識に緩む。
夫婦ふたりでの食卓を想像すると、国稀がすすむ。
その時、電話が鳴る。
妹の夫からだった。
「お義姉さんにはお義姉さんの考えがあるのに、
 妻が余計なことをして…」と詫びる。
そうした、消去的だったくせに、実は密かに楽しみになったり、
しかし、妹の旦那に気を使われて破談になり、がっかりしたり
という描写は秀逸だった。


朝倉かすみ氏は、「田村はまだか」でブレイクしてからは、
出版数が激増している。
ブレイクするまでは、作品を書いても書いても、
なかなか出版させてもらえなかった過程があるので、
現在の状況は喜ばしいことではあろう。

ただ、息切れしないかと心配になるし、もっと心配なのは、

作品のクオリティが落ちないかということ。
「ともしびマーケット」も、詰めてほしいところで、
どことなく雑ぱくで、さらっとし過ぎている点が気になった。
とはいえ、「ともしびマーケット」というタイトルだけで、
この作品は勝利だなと思える作品だった。

■川上未映子「ヘヴン」
川上未映子/ヘヴン 
2007年の芥川賞受賞作家、川上未映子の
2009年9月リリース作品。
テーマはいじめ。
その中学2年のクラスには、男女ひとりずつ、
いじめを受けている生徒がいる。
この男女の友情と、いじめを受けることの意味を描いた作品。

全体にわたって、いじめのシーンが多く、
最初はひどいな、むごいなと、重たい気持ちで読み進むのだが、
次第に、されるがままで、なんらの抵抗をしないことに、
やりきれなさとともに、苛立ちをおぼえてくる。

いじめられている女子生徒が、
いじめの意味や、いじめを受け入れるということについて、
男子生徒に対して熱く語る場面がある。
“あいつらは一人じゃ何もできない、ただの偽物の集まりだから、
自分たちと違う種類のものがあると怖くてたまらない。
自分が安心したいがために、叩きつぶそうとする。
そういうことを長くやってると麻痺してくる。
でも、最初に感じた恐怖心からは逃れられないで、
それで同じことを続ける”

壮絶である。
物事は様々な角度から見なければいけない。
とはいえ、チョークを鼻に入れられたり、チョークを食べさせられたり、
風邪で3日間、学校を休んで登校すると、机の中にはゴミだらけだったり、
とにかく気持ち悪くなってくる。

ただ、いじめられている男女が、次第に友好を深めていく場面は、
どれも瑞々しく、純度が高く、切なく、そして哀しさもある。
中学生らしい衝動や壊れ方の描写は良かった。
中学時代は人生で最も脱皮する時期なのかなと思わせてくれる。

結末はちょっと残念だった。
ダイレクトにキレながらも中途半端というか、
中盤以降は、良い意味でどろどろに引き込み、
伏線と思わしき種を蒔いているかのような場面もあったが、
終盤は妙にあっさりしていたような気がする。
「あの場面は何だったの?」、「その後が知りたいのに」と、
ちょっと物足りない気持ちが残った。
非常に惜しい。

この不完全な感じ、というか、文章や構成の出来上がってない感じに
抵抗感をおぼえる部分もあるが、
同時に、それが魅力に感じるところもある。
そんな不思議な印象を残した作品だった。

■湊かなえ「少女」
湊かなえ/少女 
湊かなえの前作「告白」は、
私の選ぶ「2008・ブック・オブ・ザ・イア」グランプリを獲得。
その後、本屋大賞第1位、週刊文春傑作ミステリ第1位の受賞もあり、
大ヒット作となった。

そして、「告白」に続いてリリースされたのが、今回の「少女」。
ある二人の女子高生。
二人はそれぞれ別々の動機から、人が死ぬ瞬間を見てみたいと思う。
高校2年の夏休み、一人は老人介護施設のボランティアをし、
施設にいる老人の死を見る機会を窺う。
もう一人は、本の読み聞かせをするボランティア団体に所属し、
小児病棟へ行き、子供の死を見る機会を窺う。

やがて、それぞれの施設で出会った人達との間で起こる出来事を通して、
別々のボランティアをしている二人が近づいていく。
二人が鉢合わせしてからは、驚きの展開の連続に、ぐいぐいと引き込まれる。
ずっと興味を切らせることなくページをめくらせ、
最後は、全ての点が線に、いや、網になるようなつながり、広がりを見せた。

物語の組み立てが上手い。
二人の女子高生の別々のボランティア活動が、
次々と起こる出来事によって距離が近づいていく。
この距離の近づけ方のタイミングと小出し感が上手い。
つまり、吸い寄せどころを巧みに配置した構成になっている。

一気にくっついて絡まるのではない。
くっつきそうな要素を少しずつ見せ、
読者に様々な想像をさせながら、
ポイントでグッと踏み込むような書きぶりになっている。

先を知りたくて、ページを捲るスピードがあがる。
あえて物語の厚みを排除しているのか、
無駄を省き、風を切るように進んでいく。
それでいて決して薄っぺらではない、しっかりと噛みごたえがある。
特に、女子高生の同級生に対する嫉妬というか、
微妙な友達関係の描き方は、いいコクを出している。
また、さほど重要ではないと思われた登場人物が、
終盤、いいスパイスになって再登場し、最後まで意外性を演出している。

「告白」のような圧倒的な引力があるわけではないし、
都合が良すぎるキャラ設定かなと感じるところもあるが、
全く飽きさせず、軽やかにストーリーを運んでくれる作品だった。
というか、単純に面白く読めた佳作である。
図書館レンタルではなく、バイした甲斐のある一冊だった。

「告白」があまりに大ヒットしたため、
久保田早紀「異邦人」のごとく、一発屋に終わらなければいいのだがと
懸念したが、それを払拭する面白さ、巧さを感じさせてくれる作品だった。
渡辺真知子的にいえば、「迷い道」が大ヒットした後の名曲、
「かもめが翔んだ日」に匹敵するくらいのクオリティにはある作品だった。
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テーマ:読んだ本の紹介 - ジャンル:本・雑誌





最後の5行で「少女」を読むことに決めました。
【2009/11/18 08:26】 URL | eiji #2xKA/Yt.[ 編集]

デジカメ。
きっとこんな所から撮ったんだろうなぁと想像できる、留萌管内の写真でした!
私も留萌管内は色々と行きましたが、それらの町が出てくる本は読むと、イメージがつきやすくて面白そうですね。
かと言って、今すぐに本屋に向かうかと言うと、まだそこまでは・・・という感じです。
私はデジカメで食べ物を撮ることがほとんどで、今思えば、留萌管内の色々な景色を写真に撮ればよかったなぁと思っています。
【2009/11/18 14:22】 URL | yoshimi #-[ 編集]

eijiさん、コメントありがとうございます。
さすがに、ポイントのつけどころがいいですね。
最後の5行は、全ての1960年代生まれの人達へ、
この作品の端的に評価したものです。
反応いただき、嬉しく思います。

コメントでeijiさんの名を見た時、
国稀オレンジラベルに関することかと思いましたが、
真知子に関してだったとは。
まあ正直、国稀も価格が高いものほど美味しく感じるのですが、
オレンジラベルは、ラベルも味になっているので
他の酒にはない趣があります。
かくいう私は、自宅では専ら、
大関・のものも・2リットル紙パックを愛飲しています。

yoshimiさん、コメントありがとう。
留萌はフォトどころですね。
狭いエリアに、海あり、川あり、山ありで、
JRの駅、数多くの坂、ナチュラルに古い建物など、
味わい深いものの宝庫です。

あと、土・日の冬の夜の留萌は、
街の規模と雪と風が作り出す厳しさと寂しさのバランスが素晴らしいです。
それを味わいに行きたいです。
【2009/11/18 22:56】 URL | クグエSW #-[ 編集]

こんにちは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
【2013/01/15 12:58】 URL | 藍色 #-[ 編集]

藍色さん、ブログを見ていただきありがとうございました。
またよろしくお願いします。
【2013/01/18 00:52】 URL | 本人 #-[ 編集]















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誰かの「いい日」に、ともしびを。たくさんの買い物客がうごめいています。みんなあんなに生きている。スーパーマーケットの白くあかるい照明にひとしく照らされている。たくさんの... 粋な提案【2013/01/15 12:39】

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