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4月25日頃から、飯島和一(イイジマ・カズイチ)という作家の
「出星前夜」(しゅっせいぜんや)という本を読んでいる。
1637年に起こった「島原の乱」を描いた作品である。
この作品に苦しんでいる。
なぜなら、読んでも読んでも、なかなか先へ進まないからである。
540頁もある分厚い本である。
それはいいのだが、1頁当たりの文字量が多く、
さらに、似たような名前の登場人物が多すぎるため、
頭の中で整理しきれないのだ。

地に足の着いた重みと丁寧さがある作品であり、
先を知りたい欲求も強いので、なんとか読み切りたい。
ところが、なかなか前へ進まない。
集中して思い切り読もうと、時間を作って本に向かうと、
すぐに睡魔が押し寄せ、集中して思い切り眠ってしまう。

やがて、この作品を早く読んでしまわねば、別のことができない
というような焦りが出てきて、気持ちが落ち着かなくなる。
まさに、この1か月の私の空回りぶりそのものである。

こんな時は、巡り会うタイミングが悪かった、相性が合わなかった、と
気持ちを切り替えて、振り切ってしまえばいいのだが、
それもできない、みじめな私よ。

ただ、この作品より前に読んだ3つの作品は、いずれも面白く、
時間が経つのを忘れてじっくり読めたし、

もう一度読みたくなるような深みがあった。
買って失敗しない3冊だと思う。
そういうわけで本日は、その3冊を紹介。

■天童荒太「悼む人」
   天童荒太/悼む人 

タイトルの「悼む人」は、「いたむひと」と読む。
第140回(2008年下半期)直木賞受賞作。
新聞やニュースで知った死者を悼むため、
その人が亡くなった場所へ赴き、そこで手を合わせる青年と、
それを取り巻く人々の物語。

物語は悼む人(=青年)の行動を軸に進んでいくが、
前半は、青年を追う週刊誌の記者、
中盤は、青年と行動を共にし始める女性、
後半は、青年の母が、それぞれ中心になっている。

特に、ガンと闘う青年の母の話は、
最終的にこれがメイン・ストーリーだったではないかと思うほど、
ガンの経過と気持ちの変化を克明に描かれている。
自分の身近な人や、忌野清志郎氏にしてもそうだが、
ガンとの付き合い方には、生きざまが出るなと思う。

青年は、行く先々で、その死者のことを関係者に聞く。
「誰を愛し、誰に愛され、どんなことで感謝されましたか」。
徹底してこの質問をし、死者を思って手を合わせる。
奇妙な青年ではある。
事実、どこへ行っても、青年を気持ち悪がる人に出くわす。
リアリティさを考えると疑問もある。
しかし、登場人物それぞれの死に対する考えを読み取って
いくうちに、仏前に手を合わせているような不思議な安らぎがあり、
リアリティさはどうでもよくなってくる。

印象に残ったシーンは、青年の母が、老人ホームの老人達に、
「誰を愛し、誰に愛され、どんなことで感謝されましたか」と
問いかけると、皆、感謝されたことではなくて、
感謝している人のことを口にしたことである。

生きている時にきちんと感謝することの重要さ、
死者を思い出してもらえることの有り難さ、
死者を思い出すことで、その人に出会っているのだということ。
そんな感じで、「あなたの死生観は?」と
問われているような気にもなった。

好き嫌いが分かれる作品だろうし、劇的な場面もないが、
静かに引き込まれ、独特の世界感に浸る魅力がある作品だった。
仮に映画化されるとしよう。
主人公の青年は20代後半である。
吉岡秀隆が7、8歳若かったら、彼が適役だろう。
その次となると加瀬亮か。妹役は吹石一恵でお願いしたい。
読むと、きっとそう思うはず。

■井上荒野「切羽へ」
井上荒野/切羽へ 

第139回(2008年上半期)直木賞受賞作。
タイトルは、「きりはへ」と読む。
この作品の中で「切羽」とは、「それ以上先へは進めない場所」と
表現されている。

主人公は、九州の離島で教師の夫と二人暮らしをしている妻。
彼女も、離島の小学校で養護教諭をしている。
新学期を迎え、東京から一人の男性教諭(20代)が赴任する。
夫とは、穏やかで幸せといえる生活を送りながらも、
次第に新任教諭に惹かれていく。
そして二人は、これ以上は進めない場所へと向かっていく。
というストーリー、らしい。
この本の帯には、そう書いてある。

「らしい」というのは、私の感覚からは、
妻が男性教諭に惹かれていく過程が判然としなかったからだ。
常に気になる存在となっているのは読み取れたが、
惹かれていく感じがぼんやりしているように思えた。

ところが面白かった。
本筋がわかりにくいにもかかわらず面白かった。
離島という小さなエリアでのスローな生活ぶりや、
狭い地域社会であるがゆえの微妙に濃密な人間関係が、
非常に巧く描かれ、読みながら島の景色が見えた。

また、心の微妙な変化や駆け引き、人間のいやらしさのようなものが、
作者・井上荒野の独特のリズム感によって、
小気味良く表現されている。

特に「嫌な気配」のようなものを描かせたら絶妙である。
さらに、登場人物の性格の違いのバランスが良く、
それを利用して、上手い具合に話に波風を立たせている。
さらっと淡々としていながらも、うねりがしっかりとあり、
静かで緩やかな展開ながら、読み応えがある。

結末は先細りしている感が否めない。
しかし、井上荒野に関しては、オチの劇的さは求めていない。
ドラマチックさも、どんでん返しもない。
ひたすら最後まで静かにうねっていく。
彼女の作品はそれでいい。
一般ウケはいにくいかもしれないが、
微妙な心模様が見える味わい深い作品である。

■桜庭一樹「ファミリーポートレイト」
桜庭一樹/ファミリーポートレイト 
桜庭一樹氏は、私の選ぶ「2007・ブック・オブ・ザ・イア」において、
「赤朽葉家の伝説」でグランプリを獲得。
次作、「私の男」は、必要性のない不快感が前面に出過ぎており、
私の中ではかなりの低評価だった。
本作は、その次に出版された桜庭一樹の最新長編作である。

「コマコ」という女の子の、
5歳から34歳までの人生が綴られている。
5歳のコマコは母親と貧乏な二人暮らし。
母親には不穏な秘密があり、住民登録もしてなければ、名字も偽名で。
コマコは学校にも通わせてもらえない。
追っ手の影に気づくと、電車に飛び乗って次の街へ。
そんな暮らしをコマコが14歳になるまで繰り返す。
その後コマコは高校へ通い、バイト生活をし、作家になっていく。

500頁を超える長編なのだが、テンポが良く、
どんどんと読み進められる。
最初から120頁くらいまでは、神秘的で衝撃的でドラマチックで、
2009年のナンバー1は、この作品で決まりかと思わせるほどだった。

移り住んでいく架空の町がいずれも、
常に薄暗い感じで、レトロで奇妙な雰囲気である。
架空の街なのに、過去にどこかで目にしているような懐かしさがあり、
変なのに切ない、桜庭一樹らしい独特の世界観が盛り込まれている。
それが、いいか悪いかは別として、私は好きだし評価している。

登場人物の奇妙ぶりも徹底している。
例えば、13歳の時に住んだアパートの大家。
彼は30歳で、失明している。
そのことについて、こう記述している。
「大家さんは元はロック界のスーパースターで、
ある夜、アンコールに応えて歌っている時、
ファンの投げたコカコーラの瓶が頭に当たって、
打ち所が悪くて失明した」

そのほかにも、最初の村での雪崩のシーンの劇的さと切なさ、
未婚者が亡くなったら花嫁衣装を着せ、
葬式と婚礼を一緒に行う儀式のある町の異様さなど、
ぶっ飛び感炸裂で、とにかく物語の前半は圧倒される。

問題は、中盤以降。
17歳から34歳までの場面である。
魅力的な言葉や表現があるし、心の葛藤の描き方も面白いが、
前半の壮絶さから比べると退屈な感じがした。
同じようなことを繰り返しているようであり、
意図的に徹底的にだらだらさせているようにも思え、
ドタバタしているのに平坦な印象が残った。

また、「私の男」にもあった、桜庭ならではの不快フレーズの
リフレインも随所にある。
特にコマコは、母に虐待されているのに一心同体のように愛している。
その根拠が明確ではなく、そのくせしつこく不可解だった。

また、あの人はどうなっちゃったの?
あの出来事は伏線じゃなかったの?的な
読者の勝手な期待を全く無視して、駆け抜けるように話は進んでいく。
ところが、それが桜庭作品の良さでもある。
独特のリズム感のある文章、一気に加速させる書きぶりは見事。
また、句読点のつける位置が意外で、不思議な感覚もある。

とにかく前半部分が、心を鷲掴みにする圧倒的な世界観があっただけに、
後半の尻すぼみぶりは、実に惜しい気がする。
それでも、私にとって、
今年上半期を代表する作品になったのは間違いない


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

冒頭にも書いたが、読みたいのに読み進められない本のごとく、
最近の私は、気持ちが一点になく、
とりめもなく過ごしているような気がしている。
まさに「散漫」である。

と思っていたら、このブログのアクセス数が「30,000」を突破した。
突破日は5月5日だった。
これは、ご覧いただいている皆様のお陰にほかならない。
そして、この数が、次の記事への大きなモチベーションになっている。
改めて皆様に感謝いたします。
LIFE GOES ON!

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