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小説・文学系作品の新刊本は、ほとんどの場合、
縦20cm、横14cm程度の大きさの単行本として発行される。
単行本は文庫本に比べて存在感がある。
「買った!」という達成感が得られる。
その作者と、その作品に対するリスペクトも示せる。
表紙のデザインが気に入り、飾っておきたくなる作品もある。
つまり、作品の中身以外にも、特別な何かを得られる。

ただ、体積が大きく、重い。
よって、携帯向きではない。
外出先への持ち運びも厄介だが、外出先で単行本を開いて読む時も、
文庫本のようなお手軽さはない。
また、仰向けに寝転がり、本を上にして読んでいるうちに
中途半端に眠りに入ったところで、
顔面に本を降らせてしまった経験をお持ちの方もいるだろう。
つまり、単行本は着席状態で読む以外は、使い勝手が良くない。

文庫本は、単行本リリース後、概ね3年程度経たなければリリースされない。
そこで、新刊本でも携帯して読みやすくなれば、
というニーズに対応するため、
新刊本は、単行本とともに、文庫サイズも
同時リリースしてもらえないかと思う。
CDとLPレコードの同時リリースよりも、手間がかからないだろう。
価格は、新刊本と文庫本が同じでいい。
だとしても、意外に文庫本サイズは売れるのではないか。

さて本日は、井上荒野(イノウエ・アレノ)の
「雉猫心中(キジネコ・シンジュウ)」という作品を紹介させていただく。
今年1月にリリースされた、まさに新刊本である。
いくつかの書評によると、評判は決して高くはなかったため、
あまり期待せずに読んだところ、
予想外に夢中にさせる圧倒的引力があったことから、
今回はこの作品オンリーの単枠指定での紹介である。

井上荒野/雉猫心中 
あらすじを端的に言うと、中年男女の不倫ドラマである。
男は古本業を営んでいる(40歳くらい)。
女は専業主婦(30歳くらい)で、その夫は中学教師。
この二人が、雉猫を通じて知り合い、深い仲になり、
あとは、なるがままに情事を重ねるだけのストーリーである。

あまりの身勝手さに、不快感と嫌悪感をおぼえる方は多いと思われる。
しかも、「で、結局、何だったの?」的な結末を迎え、
読後には、空疎感以外、何も残らない読者もいるだろう。
また、こういう恋愛をしたいという人は極めて稀だろうし、
共感も得られないだろう。

事実、最初の30ページ程度は、人物も、時間感覚も、
もやにかかっている感じで、何がなんだかよくわからなかった。
50ページまでいってこの調子なら、
読むのをやめようと思っていた。ところが。
40ページ前後から、次第に輪郭がはっきりしてきて、
50ページあたりから俄然面白くなり、読むのをやめられなくなった。

まず、作者の言葉の使い方やリズム感のようなものが、
私の感覚と合い、妙にしっくりきた。
例えば、主人公の女性の心情を書いたこんな一節がある。
「女は“はじまり”の話をするのが好きだと思う。
 “はじまり”は、いつでもくっきりとしている。
 くっきりとしている、ということは、結局のところ、
 一番幸福である、ということではないだろうか」
「全てが私の手を離れて進行しているような感覚があった。
 いつからそうなったのかわからない。
 あるいは、最初からそうだったことに、やっと気づいたのかもしれない」
こうした心の表現が、刺激的でもあり、納得させられるようでもあった。

この作品は二部構成になっている。
第一部は、主人公の女性が語り手になっている。
第二部は、相手の男性が語り手である。
つまり、同じ出来事を、同じ順序で、それぞれの目線で描いている。
そのため読者は、第一部と第二部とで、
同じ出来事に二回立ち会うことになるが、二人の目線がまるで異なり、
お互いの感情のスレ違いぶりが面白く、かつ、ぞっとする。

最初に、この作品は端的にいえば「不倫ドラマ」だと書いた。
かといって恋愛小説ではない。
なぜなら愛情や幸福が見えないからだ。
むしろ、官能小説である。
ひたすら情事を重ねる。
しかし、情事そのものの描写は少ない。
圧倒的に多いのは、情事につながっていく心理や感覚の部分である。
特に、飢餓感、焦燥感、閉塞感、寂寥感の流出量がすごい。
そうした感情という名の川の流れに乗ることができたから、
私は引き寄せられたのだろう。

人物にしても、場面にしても、説明不足な作品である。
ただ、不足というより、排除した感じである。
それによって逆に想像がかき立てられた。
と同時に、徹底して「男と女の心理」を軸として話を展開させることにより、
二人の心理の上に立った目線からは、登場する全ての人物が怪しい感じがし、
それが不思議なスリルをかき立てた。

二人は、とにかく自己中心的な勝手な理屈で情事を重ね、
崩れ落ちて、深みにはまっていく。
その様は、げんなりするが、痛快でもある。
そのせいか、情事を重ねる勝手な理屈が、唯一の理屈にさえ思えてくる。
そして、行き詰まると、「しかたがない」や「どうでもいい」で済ます。
共感する方は稀だろう。
私も共感はしない。
しかし、妙に理解できた。
ひたすらに淫らである。
愛情も幸福もないのに、何が二人をつないだのか。
二人を引き寄せた「引力」は、この作品の場合、
「淫力」と書くのが正しいかもしれない。

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