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このところ、読書する時間が増えている。
先週、ある新たな心配事が発生し、
心の中にどんよりとしたものが住みついた。
時に暴れ、時にゆっくり転がっている。
それを鎮めたいのだろうか。
音を消した部屋の中で、なんとなく本を手にする時間が増えた。

私の場合、読書欲求が高まる時期と、
そうでない時期との差が激しい。
週に3冊読める時もあれば、
1か月かかっても読みきれず、ブック・オフする時もある。
今は、時間があれば本を読みたい気持ちである。
本を、心の平静のよりどころにしているような気もするが…。

さて、今回紹介するのは最近読んだ作品の中から、
文庫本3冊と、今年出版されたのが1冊。
どれも読みやすく、なんとなく本に没頭したい時に
うってつけの作品ではないかと思う。
それでは、どうぞ。

◆天野節子/氷の華
氷の華 
面白い本だと新聞広告で見た記憶があったことと、
立ち寄った本屋で平積みにされ、
絶賛コメントが添えられていたことから
文庫の安さも手伝って、なんとなく購入してみた。
また、作者の天野節子が60歳にして自費出版した処女作であり、
その後、評価が高まり、大手出版社から発行されたということも、
私の興味と読書モチベーションを高めた理由だった。

ストーリーといい、展開といい、
まさに2時間ものサスペンス・テレビドラマである。
読み進むと、コマーシャルが入る箇所まで見えてくる。
つまりは、展開がシンプルで、わかりやすいのだ。
また、500頁超の長編ながら、無駄部分は少ないため、
読みやすいし、読み進める。

物語は、主人公であるセレブ夫人が、
夫の愛人である女性を殺害するところから始まる。
つまり最初に犯人が明らかになる手法である。
ところが、セレブ夫人はなかなか捕まらない。
また、殺害されたのは、ほんとうに夫の愛人だったのか?と
殺害したセレブ夫人も刑事も疑問を抱いていく。
その後、小さなどんでん返しを2つ、3つはさみ、
後半は、なかなかの盛り上がりを見せる。

セレブ夫人の心の描写は丹念に書き込まれている。
しかし、彼女以外の登場人物のキャラ設定が総じて弱い。
もう少し、読者が自然にイメージづけられるよう
脚色してほしい気がした。
特に、刑事が主要な箇所で何度も登場するが、
登場シーンの長さのわりに印象が薄すぎる。
また、セレブ夫人の同級生達のキャラの棲み分けを、
もう少し早い段階ではっきりさせた方が、
中盤から後半にかけて、さらに引き込まれたと思う。

読みやすく、わかりやすく、先を知りたくさせる書きぶりではあるが、
その反面、セレブ夫人の心の描写が軸になり過ぎ、
さらっと物語が進んだ印象が残った。
魅力的な文章表現に乏しく、
また、社会性や時代性を、もっと盛り込んでほしい気がした。
そのせいか、なんとなく全体的に古くさい。
結果、まとまってはいるが厚みを感じない。

しかし、伏線はきちんと張られ、隙は少ない作品である。
新たな作家の読み物としては、まずまずではないか。
とにかく、2時間ものサスペンス・ドラマ的。
わかりやすいが、忘れやすいかもしれない。

なお、このセレブ夫人が一番大切にしていたものは、
自分のプライドだったのだと思わされ、
エンディングが近づくとともに、なんとも哀れな気持ちになっていく。

◆佐々木譲/笑う警官
笑う警官 

舞台は札幌。
現職女性警察官が殺害される事件が起こった。
犯人に特定されたのは、
殺害された女性と交際関係にある現職警察官の男。
その男を、道警本部が総力をあげて探す。しかし。

どうも怪しい匂いが漂う。
犯人とされた警察官は、でっちあげられたかのようである。
そこで、主人公である刑事は、
勤務時間外を利用して、独自に、そして極秘に捜査を始める。
真犯人を捜すとともに、犯人扱いされている男を匿(かくま)う。
そして次第に、道警の闇が明かされていく、というストーリー。

これは面白かった。
常に緊張感があり、スピード感があり、
特に終盤のたたみかけるような展開は非常に楽しめた。
気づくと、かなりの早さで読んでいる自分に驚いたほどだ。

舞台が、私の住む札幌であることも、
物語に入っていけた大きな要因である。
ストーリー上の拠点は、
北1西5の中央警察署(本では「大通署」としている)と
狸小路8丁目。

そのほかには、円山のマンション、新川通の運送屋、
苗穂駅近くのパチンコ屋、伏古公園など。
全て明確にイメージができる場所だけに、
親近感も湧いたし、臨場感を高めた。

全編にわたって、「追いつ追われつ」と「駆け引き」が基本にある。
そして、絶妙のタイミングで敵、あるいは味方が現れたり、
意外な展開が程よい深さで繰り広げられて、本線とつながっていくため、
中だるみはなく、ずっとストーリーに引き込まれっぱなしだった。

真犯人の特定に近づいていく過程も面白いが、
犯人扱いされている警官を守るために、移動させたり、
トリッキーなことをしたりする、その駆け引きが非常に楽しめた。
また、当初は敵だった者が、協力者に変わっていったり、
協力者のフリをして、情報を横流しする裏切者がいたりで、
常に動きのある作品となっている。

駆け引きで、特に印象に残ったのは、
警察にとってマル秘の情報源、いわゆる”協力者”である
ススキノの男のシーン。
犯人にでっち上げられた警察官の捜査で、
ススキノは警察官だらけだった。
その捜査中の警察官の耳に、
「真犯人は別にいる」という情報を入れさせるために、
協力者を使うのだが、
「情報を流してくれ」とは頼まなかった。
逆に、「真犯人は○○
だ。
そいつの情報を集めてほしい。これは内密だ」と告げる。
「内密だ」と耳打ちした方が、情報は広まるとよんだのだ。

注文をつけさせていただくと、
協力する刑事達の区別が、いまひとつはっきりしなかった。
若手刑事と女性警察官以外は、
年齢も上下関係も所属も区別できなかった。

話を進めていく過程で、キャラの棲み分けを明確にしていき、
それぞれの個性を掘り下げていってほしかった。

それと、文章表現。
佐伯が言った。「○○○○」。
町田が言った。「△△△△」。
というように、「誰々が言った」と記してから、その人のセリフがくる。
この書き方は、非常に違和感があり、最後まで馴染めなかった。
これが非常に多かった。
この表現を工夫すると、もっとスリリングになるように思えた。

とはいえ、警察内部事情モノとしては、わかりやすく、
スピーディなわりに、それなりの重みもあり、楽しめる作品だと思う。
主人公が、「人の命より大事な正義なんてない」と強く言うシーンは、
ぐっとくる。

◆奥田英朗/最悪
最悪 

不況にあえぐ町工場の社長、女性銀行員、パチンコ暮らしの無職男。
全くの他人同士であるこの3人が、
それぞれのちょっとしたつまずきから坂道を転げ落ち、
坂の下でぶつかり合うような形で出会ってしまう。
そこからは、3人が束になって谷底に転落していく。
そんな、ひたすらTOO BADな物語である。

分厚い文庫本である。
648頁に及ぶ。
ところが読み進められる。
タイトルどおり、ストーリーは最悪な方向に進むばかりであり、
人間の心の嫌な部分を見せつけられることの連続だが、
どうしても先を知りたくなってしまう。
そう、不愉快なのに読みたくなるのだ。
そうした「読ませ力」が非常に高いため、
加速度もアップし、長さを感じさせない。

展開は非常にテンポが良く、それでいて全く薄っぺらさはなく、
起こる出来事を通じて、巧みに人物像を浮き上がらせていく。
一度に出すのではなく、出来事とともに小出しに、
別の側面から人物を描いていくのだ。
作者の奥田英朗は、別の作品でもそうだが、
この手法が天才的に上手い。

簡単に言うと、「こういう人なら、こういうセリフを言って、
こういう行動に出るだろうな」という捉え方が絶妙。
そして、社会性と時代性をうまく絡めて、
リアリティのある人物を描いてる。

ストーリー自体も面白いが、人物描写の見事さに圧倒される。
特に、町工場の社長の焦燥と、
その妻とのすれ違いぶりは見事である。


主人公の3人はそれぞれに、ちょっとした歯車の狂いが生じる。
しかし、それを解決するためにやることが、ことごとく上手くいかない。
そして次第に傷口が広がっていき、
気づいてみると、取り返しのつかないところまできている。
そうした追いつめられていくブロセスにおける状況の変化、心の変化
の拾い方が実に緻密である。
逆に、止めようのない連鎖的な「ずるずる感」が凄まじすぎて、

ちょっと気持ち悪くなるところもあった。
しかしそれが、この作品の最大の読みどころではないだろうか。

そして、このような「連鎖的ずるずる感」は、
我々も皆、背中合わせなのではないか。
生きていれば誰しも、大なり小なりの問題を抱える。
なげやりになったり、放っておいたりもするが、どこかで食い止める。
踏みとどまれずに人生が崩れ落ちていく想像をしたことが
ある方も多いだろう。

誰しも、日常の中で、なんとか持ちこたえている。
そういう意味では、決して作り話だとか、他人事だとかで済まされない、
身につまされるような不安を感じる作品でもあった。

また、主人公達の有り様を見ていて、
「なぜそこで、臆病になれなかったのか?」とも感じた。
私は、「失うものなど何もない」などと言いたくない。
失いたくないものがいくつもある。
それを守るために、臆病になることも大切ではないか。
「臆病」という言葉は、否定的な意味だけで捉えてはいけない。

主人公達は、転落していく前から、
「つまらない」、「ぱっとしない」と口にしたり、
閉塞感が漂う毎日にうんざりし、疲れきっていた。
しかし、転落し始め、次第に後戻りできない状況になっていくと、
「あの退屈でつまらなくて、うんざりした毎日に戻れたら」
と考えるシーンが何度かある。
そう、うまくいかなくて、ぱっとしない日常の中に、
大切なものがあるのだと思う。

◆はたらきたい/糸井重里 監修
   はたらきたい
この本は、「ほぼ日刊イトイ新聞」という、糸井重里氏が運営する
ウェブサイトにおいて、
2007年に3か月にわたって連載された「就職論」を、

一冊の本にまとめたものである。
「はたらくこと」に関する糸井氏と5者との対話と、
各界著名人による100の言葉により構成されており、
糸井氏と5者との対話では、民間の人事専門家などのほか、
矢沢永吉氏も登場。
矢沢氏なりの「はたらくこと」について語っている。

「就職論」とあるとおり、
これから就職をする方の手引書になる要素はもちろんある。
しかし、それ以上に、
現在、働いている方々が、

今改めて、「はたらくことって何だろう?」と考えてみる時、
面白く読めると思う。
つまり、「どうやって就職するか」ではなく、
「いかにして働くか」を語る内容となっている。

基本にあるのは、
「何を大切にしてきたか」、「何を大切にしていきたいか」。
それをはっきり言えれば、
どんな仕事をして、どういうふうに関わっていきたいかが
見えてくるというもの。

正直、理想論のような部分は多いし、
「成功してる人だから言えるんでしょ」と感じるところもある。
しかし、仕事に行き詰まってる人にも、惰性でやっている人にも、
すがりついているだけの人にも、しっかりやっている人にも、
ちょっとしたスパイスになる言葉がたくさんある。
これを読んで、大きく変わる人もいるのではないかと思う。

みうらじゅん(漫画家)の面接対策の話は面白かった。
面接で緊張しないためには、どうしたらいいかという話の際、
こんなことを言っている。
スーツを着て面接官の前に座る、一般的に言われる「面接」じゃなくて、
例えば、「漁師になりたい」と漁師に言っても、
「レーサーになりたい」とレーサー関係者に言っても、
自分は漁師にもレーサーにもなれない。
それは見た目や言動で判断されるから。
つまり、知らぬ間に面接されているということ。
また、友達同士でも、恋人とでも、面接的な要素がある。
だから、人生というのは、面接プレイの連続なのだ。
ならば、いわゆる「面接」も、昨日やったことを今日やればいいだけのこと。

いい加減な理論ではあるが、なんとなく納得もできる。
日常、何を考え、何をして、何を言っているかが、
面接の際に出るということなのだろう。

子供を産んでも、働きたい奥さんが多いという。
それは、家庭に閉じこもっているのが辛いという理由もあれば、
単にお金のためという理由も多いだろう。
しかし、一番求めているのは社会とのつながりではないか。
そう考えると、奥さんだけではない。
定年退職した高齢者だって、実は働きたい人が多いのではないか。

私が働く理由は、お金のためだけではない。
もちろん、生活をしていけないから働くわけだが、
やはり社会とつながって、関わって、
自分のまともな部分を維持し、
幅広く、豊かな人生にしたいから働くのかもしれない。
煩わしいこともあるが、結局はそこなのかなと考えた。

この本の紹介において、最初の方で触れたが、
働くことに関連する、各界著名人による100の言葉が
掲載されている。
超プラス思考の言葉もあれば、理解しがたい言葉もあり、
成功者のちょっとした自慢?的なすかした言葉もある。
その中で、最も印象に残ったのが、萩本欽一氏の言葉。
「したくない仕事しかこないんです。でも、運はそこにしかない」。
含蓄のある言葉である。

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トヨタショックな今日この頃ですが、私も週に2,3冊読んでます。佐々木譲にも一時期はまっていて、五稜郭残党伝・ベルリン飛行指令 ・エトロフ発緊急電 ・ストックホルムの密使 などを読んでました。「LIFE GOES ON」は名曲だ。
【2008/11/07 13:47】 URL | ヘロ・カル #-[ 編集]

ヘロ・カル氏、コメントありがとう。
佐々木譲作品は、はずれが少ないですね。
必ず一定ラインを超える面白さがあります。
ただ、男性向きの作品が多いなと感じています。
奥田英朗も、はずれ作品が非常に少ないですね。
そして必ず、女性ウケするような書きぶりにしてきます。

ヘロ・カル氏におかれては、トヨタショックに心が穏やかとは
いかないかもしれませんが、ひとつ言えること。
それは「LIFE GOES ON」は名曲だということです。
【2008/11/08 23:56】 URL | クグエSW #-[ 編集]















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