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今日は、桜庭一樹の直木賞受賞作「私の男」についてである。
このブログの1月5日の記事、2007・ブック・オブ・ザ・イア」
において、桜庭一樹の「赤朽葉家の伝説」を大賞にした。
展開の巧みさ、意外性、リアリティ、ふざけ方…、
その全てが素晴らしく、圧倒的に引き込まれた面白い作品だった。

その後、桜庭一樹は「私の男」で直木賞を受賞。
当然のごとく、読んでみた。
大きな期待をもって読んでみた。
展開の巧みさ、意外性、リアリティ、ふざけ方…、
何ひとつなかった。
「あれっ?これで終わっちゃうの?」という、
別の意味での意外性があった。
読み終わった後の、予想し得なかった虚無感が、
最大のどんでん返しだった。
要は、オチが用意されていないかった。
正直、買わなくてもよかったな的作品であった。
私の男
主人公の女は、小学校4年生の時、
北海道南西沖地震による津波で、両親と兄弟を失い、
家族の中で一人だけ生き残る。
その女を引き取ったのが、遠い親戚にあたる25歳の男。
この2人の15年間にわたる、キモい人生が綴られている作品である。
これを2008年(女24歳、男40歳)から、
1993年の北海道南西沖地震まで遡る形で書かれている。

とにかくキモい。
なにせ、この2人、できちゃってるのである。
できちゃってるが故の結びつきの強さを表現している箇所が多い。
多すぎる。正直しつこいし、くどい。
そして、全編にわたって暗く、湿り気が強く、生臭さすら漂う。
それでいて、ストーリーは軽い、というか、
不思議とあっさりとしている。


また、この男のキャラが、いけ好かない。
ふざけた、ただのだらしない男にすぎないのだが、
これを美化して、格好良く描きすぎ。ひいてしまった。
そして、煙草を吸いすぎ。
登場する場面の80%は煙草を吸っている。
読んでいるだけで、湿ったタバコ臭さがムンムンするが、
この女、「たばこ臭い」とは一切言わない。
リアリティが無さすぎ。

桜庭一樹は、イマイチの人を描くと非常にいい味を出してきた。
その人の欠けている部分に、妙に愛おしさを感じさせるのが上手い作家
であると認識していた。
この作品は、愛おしさは全くなく、不快感だけだった。

しかし、良い点もあるから、こうして私も書いているのである。
桜庭一樹は、読ませる力のある人だ。
不快なのにもかかわらず、読み進めたくなるようなドキドキ感の演出は
さすがである(結局、肩すかしをくらったが)。
特に序盤から中盤は、かなり引き込まれる。
それだけに、後半、尻すぼみなのが非常に残念である。

この女は、奥尻島で被害に遭った後、高校1年生まで紋別で暮らす。
冬の紋別の厳しさや、流氷の存在の大きさが、執拗に書かれている。
少し飽きるが、冬の紋別に行きたいなと思えた。
紋別の良い部分を、ほとんど書いていないにもかかわらず、
行きたいと思わせるような描き方ができるのは評価したい。

ただ、奥尻、紋別と、北海道が舞台になっているものの、
北海道弁の把握に甘さがある。
年配者のセリフで、「もう十時を過ぎとるよ」、
「早くやらないとならんよ」、「長生きなんかするもんじゃねえ」などある。
こんな言葉を、北海道の人は使わない。
「北の国から」の田中邦衛のアクセントに匹敵するほどひどい。

「~しとるよ」などという言葉つがいは、
ネイティヴ北海道人から、今まで一度も聴いたことがない。
「早くやらないとならんよ」ではなく、「早くやらねばねえべや」が正しい。
「長生きなんかするもんじゃねえ」では、長渕言葉である。
北海道の年配者は、「じゃ」を使わない。
「するもんじゃねえ」ではなく、「するもんでねえ」が正しい。

また、この作品、おそらく「血のつながり」が根底にあるテーマだろう。
思えば、「赤朽葉家の伝説」も「少女に向かない職業」も、そうだった。
血の強さや血の持つ意味を、とことん追求しているように感じる。
それは悪くないし、桜庭一樹の執念さえも感じさせる。

繰り返しになるが、不快なのにもかかわらず、
読み進めてしまえる作品である。
これを絶賛する方もおられるはずだ。
話は、2008年から始まって、1993年まで遡ることにより、
どうして今、こういう状況にあるのかがわかってくるのだが、
この先、つまり、2008年以降はどうなったのかが気になるし、
1993年以前がどうだったのかが気になる。
そういう意味では、中途半端に終わっているように思うし、
その反面、まだ続きが読みたいと思う。

「私の男」は、売れている。
直木賞という冠がつくと、やはり売れる。
札幌市の図書館における予約数も200を超えているようだ。
読みたい方は私に言っていただきたい。
現在のところ予約ゼロである。
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テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学





こんにちは。お久しぶりです。
湿っぽい、タバコ臭い・・・私の男ですか
なるほど、クグエさんの評論のおかげで、読まずとも
リアルに情景が想像でき、ありがたいことです。
読書好きとは言えない私ですが、本棚の本の冊数はなかなかのものです(苦笑)
ベストセラーの単行本や支庁勤務(非常勤)時代に講演を依頼されることが多く、人の言葉にヒントを得ようという浅はかさから和田秀樹など何冊も買うことが多く、その厚みで本棚のスペースをとっているともいえます(このような場合は、必要箇所を抜粋すると読みきらないことが多い)。
そんな中でも、出張移動中に読もうと購入する時は、読みきれる恋愛小説が多く、とりわけ藤堂志津子は、ダントツです。
登場するたくさんの“私の男”模様から、年齢を超越したライフスタイルの多様さにホットすることが多いのです。
というわけで、クグエ文庫の「私の男」を貸出予約希望いたします(笑)

【2008/04/06 10:53】 URL | なつき #-[ 編集]

なつきさん、コメントありがとうございます。
本に書いてあったことを引用するのは、
伝えたり、話したりする上で、非常に効果的ですね。

それにしても、小説なるもの、
相性というのが強く存在しますね。
しかも、最初の5頁くらいで、
自分と相性が合う作品かどうかわかりますよね。
不思議なものです。

私は、単純に、いい音楽に出会うように、
美味い焼鳥やカレーに出会うように、
おもしろい本に出会いたいと思っているタイプです。

なお、コメントの中で「和田秀樹」と書いてあるのに、
野田秀樹の顔ばかり思い浮かんでしまう自分が哀しいです。
【2008/04/08 00:22】 URL | クグエSW #-[ 編集]

花は淳悟のものだから何をしてもいいんだ
【2013/01/28 00:23】 URL | q #-[ 編集]

qさん、コメントありがとうございました。
直木賞受賞後の桜庭さんの作品は、
なんかこう淀みがちかな気がしています。
【2013/01/28 23:20】 URL | 本人 #-[ 編集]















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