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12月17日(金)のライブの出演時刻が変更になりました。
我がバンド、ザ・ハート・オブ・ストーンの出演時刻は
19時45分
です。
よろしくお願いします。

今回はブックレヴュー。
読み応えのある良い作品ばかりです。
よろしくどうぞ。

■伊坂幸太郎「マリアビートル」
伊坂幸太郎/マリアビートル
東京発盛岡行の東北新幹線の車内。
大金が詰まったトランクを運ぶために乗車している怪しい男二人。
そのトランクを奪うことを命じられた男。
中年男を人質にして盛岡へ向かう狡猾な中学生。
そんな彼らが車内で微妙に絡み合い、
そんな中、邪魔者が現れ、殺人が起こり、事態は混乱していく。
果たして、新幹線は無事、盛岡に到着するのか。
そして、最後に生き残るのは誰か。

久しぶりに伊坂氏らしい面白さと気高さにあふれた作品だった。
キャラクターの設定、伏線の仕掛け方、例えの巧みさ、
哲学的な表現とユーモア性。
まさに伊坂ファンが待っていた、伊坂氏らしい作品といえる。

とにかく誰も物事が思うように進まない。
上手くいきそうなところで裏をかかれピンチの連続。
状況はどんどん深刻になっていく。
ところが、その状況をスタイリッシュなロジックを用いて表現し、
その一方、妙にとぼけた雰囲気を醸し出し、
伊坂氏独特のヒネクレぶりが炸裂している。

例えば、トランクを運ぶ男の一人は、機関車トーマスの大ファン。
何かにつけ、機関車トーマスに登場する機関車になぞらえて話す。
最初は、煩わしく思えるが、次第にいい味を出してくる。
生死の境の場面でも、トーマスのシールを使って
絶妙のオチに結びつけている。

中盤、面倒くさい理屈でこねくり回すあまり、
スピーディでスリリングな展開が鈍る感じはあるものの、
映像を想像しやすく、ぐっと入り込んで読める。
また、車内販売員、車内の電光掲示板など、
新幹線という狭い空間にあるあらゆる設定を

ほんとに上手に使っている。

「人は周囲の影響を受けて行動する」ことのロジック。
人間は理性じゃなくて、直感で行動する。
そして、自分の意思で何かを決断しているように見えても、
まわりの人間から刺激や影響を受けている。
しかし、「自分の好きなように行動していいですよ」と言われると、
なぜか他人を気にする。
特に「正解がはっきりしなくて、重要な問題」ほど、
人は他人の答えを真似する。
そうした筆者の現代社会への警告みたいな思いが
随所にあるところも良かった。

■熊谷達也「銀狼王」
熊谷達也/銀狼王
時は明治20年。舞台は北海道、日高地方の新冠。
主人公は、ヒグマやエゾシカの猟をする50歳の男。
彼はある日、アイヌの老人から、日高山脈には、
銀色の毛並をした巨大な狼が生き残っているという話を聞く。
その狼を狩りに、初冬の日高山脈に出かけるという話である。

当時、狼は、人間が飼育している馬や羊を襲うことから、
ヒグマとともに、狩りの標的だった。
その甲斐あって、明治中期までに狼の数は激減。
一方、狼の数が減ったことにより、エゾシカが増えた。
狼の食事の中心となるのが、エゾシカだったからだ。

このことは、現在にも通じることである。
現在、北海道には60万頭以上のエゾシカが生息していると言われている。
自然とエゾシカと人間がバランス良く成立するためには、
エゾシカは20万頭が限界らしい。
つまり、その3倍以上が生息していることになる。

増えすぎたエゾシカは、人間の近くに現れることが増え、
農作物の被害のほか、交通障害にまでなっている。
一方、ハンターの数は激減し、狩猟がおぼつかない状態である。
私も、今年の登山中に、3、4回はエゾシカに出会った。
「見た」というより、「出会った」だ。
なにせ20m手前をゆっくり横切られたり、
左横30mくらいのところで、しばらくじっと見られたりして、
近い距離だと、それなりの恐怖があるものだ。

主人公は、仙台藩から北海道に開拓移民として渡ってきたという設定。
東北戦争で敗北した仙台藩は路頭に迷い、
日高方面をはじめ、現在の伊達市や当別町、
さらには、札幌の白石区、手稲区に移住をした経過も書かれており、
なかなか興味深かった。

狼を追って、入り込んだ日高山脈の山中における行動が凄い。
凍死しそうなほど寒く、寒さから逃れるため、穴倉を探す。
見つけた穴倉の中にはヒグマがいた。
そのヒグマを銃で仕留めた後、
ヒグマの腹部に密着して寒さをしのいで、夜を明かしたり、
食事は、狼を追う途中に仕留めたヒグマやエゾシカの肉だったり、
狼に人間が近づいていることを気づかせないために、
手が切れるような冷たい川に入って体を洗って、人間の匂いを消したりと、
とにかく、いちいち壮絶で、これが集中して読めた大きな要因ともなった。

ただ、あまりに壮絶すぎて、ちょっと笑ってしまったのが、
狼を見張るために、木の上で夜を過ごすことにした主人公が、
睡魔に襲われ、意識が遠のくたびに、
木に額を打ち付けて意識を引き戻すシーン。
何度もそれをするうち、額が割れ、血があごへと伝い落ちる。
終始、実直で、それでいて破天荒で、物語に引き込まれていくものの、
さすがにこのシーンは、やり過ぎかなと。

また、一頭の狼を仕留めるために、ひとりで極寒の山中へ向かい、
命がけで狼を追う、その動機がちょっと見えにくかったかと。
しかし、目標だった狼を発見。その狼は二頭を引き連れていた。
つまりは三頭いた。
それを追っているうちに、いつのまにか二頭になっていて、
おかしいなと思っていたら、挟み撃ちにされていたり、
そうした狼の頭の良さ、巧妙さを、随所に淡々と、
それでいて生き生きと描いている。
狼と人間との駆け引きの緊張感と面白さは読み応え十分。
実に骨太で、力感のあふれる作品である。

■中村文則「悪と仮面のルール」
中村文則/悪と仮面のルール
主人公は財閥の息子。
父はアルコールにおぼれ、常に不気味な雰囲気を漂わせている。
この家には、主人公と同じ年の養女がいた。
父は、中学生になった養女を、
夜になると頻繁に部屋に呼ぶようになる。
それに耐えかねた主人公は、誰にも知られずに父を殺害する。

しかし、それ以来、主人公は、父を殺した苦しみと恐怖に襲われ続ける。
学校へはろくに行かず、就職もせず、魂が抜けたように生きていく。
それでも財閥の息子であるため、お金の心配は不要だった。
20代後半になり、彼は整形手術をし、戸籍を買い、全くの別人になる。
そして、かつて一緒に住んでいた養女に会おうとする。
ところが、養女の周辺には、巨大な悪の影が…。

夢中になって読めた。
スピーディに展開し、サスペンス的面白さがあるとともに、
筆者独特の、どうしようもないこの世界に暗澹としている雰囲気は、
きっと自分に潜む感覚と重なるものがあるのだと思う。

見方によっては、理屈っぽいし、観念的である。
具体的な現実ではなく、頭の中の想像を飛躍させて語るところが
随所にあるため、ちょっと面倒に感じる方は多くいると思うし、
設定の非日常性も含めて、広く一般にウケる作品ではないだろうし、
好き嫌いがはっきりするタイプかもしれない。
私はこの作家の文体や世界観を非常に魅力的に思う。

例えば、こんな箇所がある。
「中学生のカップルを振り返ると、彼らは手をつないでいる。
 僕はそれを無表情で眺めている。
 何か汚れたことをしたいと思い、公園から道路に出て、
 タクシーを拾った。自分の不意の欲情は、
 彼らのせいだろうか、そうではないだろう、思う。
 僕はこれから帰って一人で寝てもよかったし、
 このまま歩いてもよかった。
 手に持っている缶コーヒーを誰かに投げてもよかったし、
 なげなくてもよかった。
 欲情してもよかったし、しなくてもよかった。
 何でもよかった」

こうした、どっちつかずの陰鬱な気配がたまらない。
そして、どことなくロックな感じがする。
前記の伊坂幸太郎氏も、原理を追究したり、ロジックを多用するが、
伊坂氏の場合は、気高く、スマートである。
それに対して中村文則氏の世界観は、泥臭い孤高感がある。

前作「掏摸(すり)」も刺激のある作品だったが、今回の作品も良い。
文学的サスペンスとでも言おうか、
これまでの作品より、ぐっとエンターテイメント性を増したので、
読者の底辺が広がるのではないだろうか。

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