まずは5月18日のライブのお知らせを。
■日時 2013年5月18日(土)19:00~
■場所 ベッシーホール
(札幌市中央区南4条西6丁目晴ればれビルB1)
■料金 1,500円+ドリンク代500円
■出演 六花/IBIZA WAVE/MYSICCK/Selfarm/
THE HEART OF STONE
私ども、THE HEART OF STONEの出演予定時刻は21時です。
よろしくお願いします。
さて今回はブックレヴュー。
よろしくどうぞ。
■樋口毅宏「ルック・バック・イン・アンガー」(2012年)
アダルト本出版社に勤務する、どこか壊れている4人の社員の物語。
どこまで真実なのかわからないが、そこまで自分たちでやるのか、という
アダルト本出版業界の仕事ぶりに驚かされた。
登場する4人の社員の歪みや屈折が激しく、
また、エロチックな描写とバイオレンスの場面が多いため、
目をそむけたくなるような抵抗感をおぼえる方は少なくないだろう。
私は、このデストロイぶりに結構引き込まれた。
というのは、単にエロチック、グロテスクなのではなく、
その人物の境遇や壊れるに至る背景などが念入りに描かれており、
短編ではあるが、なかなか厚みのある構成になっている。
一般人の感覚とはかけ離れたストーリーではあるが、
それはそれで妙に納得できそうな不思議な世界を表現できている。
また、随所にコミカルさと皮肉を織り交ぜているのも面白い。
例えば、連日嫌味を言い続ける上司に対する我慢にも限界がきて、
そこにあったゴルフクラブでフルスイング。
上司の脳天から鮮やかな血が吹き出すとともに、
カツラが天井を叩く場面など、強烈かつ滑稽である。
なお、この作品を読もうと思ったきっかけはタイトルである。
オアシス・ファンでなければつけないタイトルだろう。
どういう形でオアシスが絡んでくるのか楽しみに読んだが、
引き合いに出されるところも、
オアシス的な何かを感じるところもなかった。
ただ、「あとがき」で、この作品を書くに当たり、
引用、オマージュ、リスペクトなどをした人や作品の中に、
「オアシス」と書かれていた。
ブランキー・ジェット・シティ、佐野元春なども書かれていた。
しかし、彼らの音楽に通ずる何かは感じなかった。
とはいえ、ロックが好きなことも随所に感じるし、
政治や古い世代へのアンチテーゼも感じる。
忘れ去られたロックの反逆性が内包されている。
ちょっと追いかけてみたいなと思う作家ではある。
■桜木紫乃「ホテルローヤル」(2013年)
釧路湿原を背に建つラブホテルを巡る物語。
ホテルの建設に至った経緯から、ホテルを利用する人達の様々な人間模様、
ホテル従業員の閉鎖的な生活、そしてホテルの廃業後など、
7つの短編で構成されている。
やはり桜木作品にハズレなし、である。
桜木さん独特の、庶民の生活に隠された「陰」の部分が、
この作品でも際立っている。
現状から抜け出せない苦しさと歯がゆさ、
それを受け入れ、流されてしまう暗澹たる気持ちを書かせたら、
桜木さんはほんとうに巧い。
檀家からのお布施や寄付金が減り、
生活苦に陥っているお寺の住職の妻が、
複数の檀家と援助交際をして、生活費を捻出するという話は
特に印象に残った。
お寺に嫁ぐということ、お寺を運営していくということの大変さ、
核家族化や過疎化による、住民とお寺との関わりの変化など、
切り口が冴えており、非常に面白い読み物になっている。
ホテルのオーナーの妻は愛人を作って逃げ、
やがてオーナーは他界し、20歳そこそこの娘が経営を引き継ぐも、
新しくできたホテルの攻勢と、自らのホテルの老朽化、そして、
ホテル内で起こった事件によって、一気に廃業に追い込まれていくのだが、
この作品は、最初の短編が、ホテル廃業後の話で、
最後の作品が、ホテルを建設するときの話である。
つまり、時系列に並べているわけではない。
散々な状況で廃業したホテルだが、作品の最後にきて、
ホテルを建設する際の希望に満ちた揚々たる気持ちが描かれており、
それがまた実に切なく哀しい。
胸にずっしりとしたものが残る。
■木内一裕「神様の贈り物」(2012年)
職業は殺し屋の韓国人、「カン・チャンス」の物語。
彼は難病を抱えていた。
頭の中に腫瘍があり、それが扁桃体(へんとうたい)というところを圧迫。
痛みはなく、身体的には何の不自由もないのだが、
感情が全くない、という病気だった。
彼は、軽井沢で殺人を実行。
しかし、相棒と揉め、軽井沢から東京へは一人でバスで帰ることに。
そのバスの中でバスジャックが起こる。
犯人はバスの中にガソリンをまき、ライターに火をつける。
カン・チャンスは、隣の乗客が持っていてボールペンを奪い、
犯人の眼球から鼻骨に向かって突き刺し、殺してしまう。
カン・チャンスは、絶体絶命の状況で乗客を救ったとして、
いきなりヒーローになってしまう。
やがて、カン・チャンスは、所属先のヤクザの親分に頭を撃たれてしまう。
しかし、彼は死ななかった。
命が助かっただけではなく、頭を撃たれたことで、
神様から贈り物が与えられる。
面白い。ノン・ストップでの展開に、読むのをやめられなくなる。
カン・チャンスの人物像が際立っているし、
周辺の人物のキャラの棲み分けも上手い。
特にヤクザの下っ端の精神構造や言動は、
他の追随を許さないリアリティさとコミカルさがある。
惜しむらくは、エンディングが唐突なこと。
ここからでしょ、というところで終わっている。
9合目で終わったのではない。5合目で終わった感じである。
これの後編としてもう一冊あってもいいくらいである。
木内作品はこれまで全て読んでおり、
どれもスピーディな息をつかせぬ展開で面白いのだが、
後になってみると心に残らない。
よって、読み終わった時はすごく面白かったと思うのに。
毎年恒例のブック・オブ・ザ・イアの時は、印象度が低いという難点がある。
ただ、これは面白かった。
木内作品のレヴューではいつも触れてしまうことだが、
映像化すると、より面白さが表現できると思う。
これまでの、どれかの作品が映像化されないかなと期待していたが、
木内氏の処女作、「藁の楯」が映画化され、少し前に公開となった。
この原作も面白い。気になる。
■川村元気「世界から猫が消えたなら」(2012年)
主人公は郵便配達をしている30歳の男性。
2週間以上も頭痛がひかないため病院に行く。
脳腫瘍と診断され、余命はわずかだと告げられる。
放心状態のまま帰宅。そのまま眠ってしまう。
目を覚ますと、そこには自分と同じ姿をした他人がいた。
彼は「悪魔」だと名乗り、「明日あなたは死にます」と宣告。
と同時に、「この世界からひとつだけ何かを消す。
その代わりあなたは一日の命を得ることができます」と告げる。
その日から、ひとつずつ自分の身の回りの何かを消していく。
その中で、ほんとうに大切なことに近づいていく物語である。
展開がごちゃつくことはなく、淡々と進んでいくため読みやすく、
素直に感情移入できる方は少なくないとは思う。
ただ、なんというか、良くも悪くも全体的にさらっとしている。
迫りくる死への恐怖や、愛したものへの強い思いなどが感じられず、
ちょっと表面的であるというか、もう少し説得力があればと感じた。
とにかく死が翌日に近づいているとは思えないくらい行動的なことに
なにがしかの違和感をおぼえながら読んだ。
時々、死が近づいたときのことを想像し、
そのとき何をしたいだろうか、と考えてみる。
私の場合、まずは、後で誰も困らないように身辺整理をする
それと、人に会うことと、人に伝える作業をすると思う。
少なくとも、あれが欲しい、どこへ行きたいという欲求は生じないだろう。
つまり物欲だとか遊びの欲求はなくなる。
ならば逆に、元気なときにこそ、
そうした欲求をもう少し許してもいいのかなと思う。
しかし、日々生きていくのは辛いものだ。
目の前の物事に追われていかざるを得なかったりする。
それを「充実」と感じてしまうかもしれない。
だが一方では、目の前のあれやこれやによって、
本当に大切なことから、どんどん遠ざかっていってるのかもしれない。
だから私は前だけを見て、どんどん突き進む気持ちが強くない。
しょっちゅう立ち止まっている。
横を見て、後ろを見て、結構引き返している。
それはそれで結構辛いものではあるが。